「哲学のノーベル賞」を目指して創設された「バーグルエン哲学・文化賞」を受賞した柄谷行人氏。氏が継承したのはマルクス経済学者・宇野弘蔵(1897~1977)の方法論でした。その『資本論』の独創的な解釈を佐藤優氏が読み解きます。佐藤優氏の連載「ベストセラーで読む日本の近現代史」より一部を公開。(月刊「文藝春秋」2023年2月号より)

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柄谷哲学の集大成『力と交換様式』

 柄谷行人氏(哲学者・思想家)が2022年の「バーグルエン哲学・文化賞」の受賞者に決まった。

柄谷氏 ©文藝春秋

〈米カリフォルニア州のシンクタンク、バーグルエン研究所が(一二月)八日、発表した。この賞は、同所長で慈善家のニコラス・バーグルエンさんが「哲学のノーベル賞」を目指して二〇一六年に創設し、「急速に変化していく世界のなかでその思想が人間の自己理解の形成と進歩に大きく貢献した思想家」に毎年授与している。/柄谷さんの受賞理由は「現代哲学、哲学史、政治思想に対する極めて独創的な貢献」。そして「混迷するグローバル資本主義と民主主義国家の危機、めったに自己批判が伴うことのないナショナリズムの復活という今の時代において、その作品は特に重要である」とされた。アジア初の受賞。柄谷さんは「思いもかけなかった評価に喜んでいる。感謝しています」と話す。賞金は一〇〇万米ドル(約一億三七〇〇万円)。授賞式は来春、東京で行われる予定だ〉(2022年12月9日「朝日新聞」朝刊)

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 柄谷氏は2022年10月に自らの哲学の集大成というべき『力と交換様式』(岩波書店)を上梓した。世界史の構造を柄谷氏は、4つの交換様式という理念型を設定することで整合的に説明しようとする。

〈交換様式には次の四つがある。/A 互酬(贈与と返礼)/B 服従と保護(略取と再分配)/C 商品交換(貨幣と商品)/D Aの高次元での回復/私がこのように考えるようになったのは、経済的ベースを生産様式(生産力と生産関係)に見出すマルクス主義の見方ではうまく説明できないことが多かったため、それがさまざまな形で批判され、最終的に、経済的ベースという考えそのものが否定されるにいたったからだ〉