インプットとアウトプット
体を張った企画やドッキリを仕掛けられた時、「こんな芸風になるはずじゃなかったのに~!」と絶叫する芸人がいます。夢見ていたのは冠番組でMCとなり、アイドルや俳優など一流芸能人を仕切ること。しかし、現実はいじられる側。
芸人には憧れの芸人がいます。1990年以降はダントツでダウンタウンさんだと思います。東京ではここ5年くらい、金属バットやニューヨークみたいな漫才をやりたいという若手芸人が数多く現れています。最近は明らかにオズワルドの影響下に漫才をする芸人が増えてきています。
ダウンタウンさんに憧れている芸人のネタはだいたい一目でわかります。たしかに、ダウンタウンさんがやったらおもしろいネタかもしれません。しかし、どこの馬の骨かもわからない一介のお兄ちゃんたちがやったところで、お客様は笑ってくれないだろうなあ~と思うのです。
キャリアのない若手芸人はテレビで見ている憧れの芸人と自分を同一視してしまいます。自分がダウンタウンさんと同じ立ち位置にいると勘違いしているのです。たしかにワードのチョイスやセンスはいいかもしれない。しかし、それを本人がやってもウケないということがわからないのです。
インプットしたものをインプットしたまま出しても意味がありません。それは人の書いた論文を丸写しして提出するのと一緒です。自分自身がないのです。その手の人は作家に向いている場合があります。自分が演じてこそ一番おもしろいというネタが書けないと、芸人とは言えないと思うのです。
NSC卒業したての頃は、みんな意気揚々としています。「誰が君の悪ふざけしているところを見たいと思う?」と言っても聞く耳を持ちません。自分のネタに絶対的自信を持っているのです。しかし、1年くらい過ぎて、思った通りにウケずにいると「何かおかしい……」とようやく気づくのです。自分らしいネタを身につけるまでだいたい2~3年はかかると思います。
そして、芸人が成長するためにはある程度は、お兄さんたちからツッコミを入れられる、いじられることは必要不可欠だと思っています。自分を客観視することができるからです。それによって、自分が思ってもいない引き出しを見つけだせることがあるからです。逆に言えば、いじられる奴は才能があるのです。だから、お兄さんたちも何かを引き出そうとするのです。
逆に、誰からもいじられずにまったく変わらず何年も同じことを繰り返している芸人も多々いるのです。