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「楽しみは自分で作るもの。ワクワクは転がっていない」もうひとつの“白兎伝説”に挑む鳥取県八頭町民のシビック・プライド

「楽しみは自分で作るもの。ワクワクは転がっていない」もうひとつの“白兎伝説”に挑む鳥取県八頭町民のシビック・プライド

2023/01/28

genre : ライフ, , 社会, 歴史

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 2023年は卯年。ウサギと言えば、思い出すのは「因幡(いなば)の白兎(しろうさぎ)」の神話だ。

 日本海に面した鳥取県鳥取市の白兎(はくと)海岸がその舞台とされ、すぐそばには白兎神社もある。

 だが、鳥取県内にはもう一つ、白兎伝説がある。

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 鳥取市中心部からだと中国山地側に隣接する八頭(やず)町に伝わっていて、中身も違う。

 これまではあまり知られていなかったが、卯年の今年から誘客に結びつけようと、地元の有志グループや町の観光協会が物語にまつわる場所をウォーキングコースに設定し、ガイドも始めた。

 鳥取市の「海の白兎伝説」と違い、八頭町の「山の白兎伝説」は観光地化されてこなかっただけあって、ゆかりの地と言っても、小さな社殿や田園風景だけに近い。しかし、なぜか立ち止まって人生を振り返りたくなるような不思議な魅力と、仕掛けがある。

 まず、有名な「海の白兎伝説」をおさらいしておこう。

日本最古の史書『古事記』や『因幡国風土記』で描かれた白兎伝説とは…

 淤岐(おき)ノ島から対岸の因幡(鳥取県)の海岸へ渡りたいと考えた白兎が、サメをだまして仲間を呼ばせ、一列に並んだ背中の上をピョンピョンとはねながら陸地を目指した。ところが、あと少しというところで嘘がばれ、怒ったサメに体じゅうの毛をむしり取られてしまう。白兎が泣いていると、通り掛かった大国主命(おおくにぬしのみこと)がガマの穂を使った治療法を教えてくれた--という内容だ。神代の創世神話から推古天皇(在位592~628年)の時代までを記した日本最古の史書『古事記』や『因幡国風土記』に載っている。

八頭町の白兎伝説ゆかりの地(ぷらっとぴあ・やず内、うさぎテラス)

 白兎海岸のすぐ沖には、白兎が住んでいたともされる「淤岐之島」があり、同海岸には「白兎神」を祀った「白兎神社」が建てられている。今年は例年以上に初詣客が多く、長い行列が出来た。

 同神社に人気が集まっている理由は他にもあり、「ウサギの縁結び」という御利益も大きい。

「因幡の白兎」の神話には続きがあり、助けてもらった白兎は大国主命に予言をした。実は大国主命が因幡に足を運んだのは、この国に住む八上姫に求婚しようと訪れた兄弟神のお伴としてだった。兄弟神は大国主命に荷物を持たせ、さっさと歩いて行ってしまい、白兎にも先に会っていた。だが、治療法を教えるどころか、赤むけになった体を海水に浸けるよう仕向けて、白兎をさらに苦しめる。大国主命が出会った時に白兎が泣いていたのは、そのせいだった。元の体に治った白兎は「八上姫が妻になりたいと思うのは兄弟神ではなく、優しい大国主命だ」と告げて、言葉通りになる。

 鳥取市の観光パンフレットには「日本で最初のラブストーリー」と紹介され、NPO法人・地域活性化支援センターも「恋人の聖地」に選んでいる。白兎はローマ神話の「キューピッド」のような存在として人気を博しているのである。

「ウサギ推し」の鳥取市。鳥取駅の改札もウサギのデザイン

 ところで、もう一方の「山の白兎伝説」。舞台となったのは、中国山地へ向かう街道沿いにひらけた八頭町だ。鳥取駅から八頭町中心部の郡家(こおげ)駅までは、JR因美(いんび)線の普通列車で約15分。町内では一部地区で鳥取市のベッドタウン化が進んでいるものの、人口は1万6000人ほどしかなく、古くからの集落では一様に高齢化と人口減少が続く。