佐藤さんは「いっぱい来てもらいたい」と意気込むが、これにも課題がある。「あまりにたくさん来られると、受け入れができないのです」と申し訳なさそうに付け加える。というのは、全てが手作りだからだ。
例年の10倍、約400人の人出に「また同じ規模でできるだろうか」
甘酒やぜんざいをふるまった福本の白兎神社での年越し・初詣には、例年の10倍ほどの約400人もの人出があった。が、そもそもは福本集落の行事だ。観光協会や地域おこし協力隊員が手伝ったからこそ実施できたものの、地元では「また同じ規模でできるだろうか」と不安の声も漏れた。
これといった土産もあるわけではない。
観光協会のスタッフが考えたウサギ形の水引を「うさぎ結び」として販売しているが、考案者が一つ一つ手作りしている。観光協会で始めた福本の白兎神社の御朱印帳の揮毫も、地元の県立八頭高校の書道部顧問に書いてもらい、印刷して配付する程度しかできていない。
おみくじも手作りだ。これはやや変わっていて、吉凶ではなく、地域おこし協力隊員の1人が考えた「ひとこと」が書いてある。
髙野さんが引いたら「わくわくしてる?」という言葉が出てきた。「白兎の御告げです。受け取り方は人それぞれでしょうが、私は『楽しみは自分で作るもの。ワクワクはその辺に転がっているものではないか』という意味にとらえました。福本の白兎神社にはおみくじを結ぶ木がないので、財布などに入れられる大きさにしてあります。私はいつも持ち歩いていて、自分を振り返る言葉にしています」と話す。
「やめてしまったら」「求めすぎなんじゃない」「耳が痛いこと、大事にしてみたら」などという言葉を引いた人もいた。じわじわ人気が出ていて、「頼まれたから」と人の分まで引いていく人もいる。だが、言葉を考えているのは1人なので、印刷も含めて量産できるわけではない。
訪ねてきてくれる人に期待していることは?
つまり商魂たくましく、もうけのために誘客しようとしているわけではなく、「跡継ぎが出てしまって、高齢化した集落が多くあります。年を取って、農業が辛いという人もいます。そうした八頭町でも、町を誇れるポイントが新たに出来て、少し賑わえば、皆の気持ちが変わってくるのかなと思います。難しい言葉で言えば、シビック・プライドと言うんでしょうか」と髙野さんは話す。
髙野さんらは、訪れる人に何を期待しているのだろうか。
「私が千葉から引っ越して来た時、花がいっぱい咲いていて、のどかだな、流れている時間が違うなと思いました。新型コロナウイルス感染症の流行で縮こまっていた時期だから、よけいにそう感じました。ここには白兎伝説の立派な社殿があるわけではありません。しかし、昔からの信仰が営々と続いていて、飾らない地域があります。忙しい日常に疲れた皆さんがここに来て、のんびり歩きながら、ふと自分を振り返ってみる。そして次に進んで行くための活力が得られるような場所になったらいいなと思います。なんといっても、道しるべとなった白兎伝説の地なのですから」と話す。
すり切れてしまいそうになる現代の暮らし。八頭町の伝説と自然は、私達を導いてくれるというよりも、道を探す手伝いをしてくれるのかもしれない。
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