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「楽しみは自分で作るもの。ワクワクは転がっていない」もうひとつの“白兎伝説”に挑む鳥取県八頭町民のシビック・プライド

「楽しみは自分で作るもの。ワクワクは転がっていない」もうひとつの“白兎伝説”に挑む鳥取県八頭町民のシビック・プライド

2023/01/28

genre : ライフ, , 社会, 歴史

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ウサギなのに1羽、2羽と数える“理由”

「鳥の鵜(う)と鷺(さぎ)の彫り物もあります。かつて日本では四足動物は食べてはならないとされていました。でも、山里でウサギは貴重な食料です。そこで『あれはウとサギ、鳥なのだ』ということにしていました。1羽2羽と数えるのはその名残です」

 福本集落では、地元に白兎神社を戻そうと2010年、小さな社殿に神体を戻した。

 当時は伝説や神社について地元でしか知られておらず、福本集落に住む70代後半の女性も「以前は竹薮が生い茂り、大木が2本立っているという以外は、何があるかなどほとんど知る人はいませんでした」と話す。

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「そこで前回12年前の卯年には、『山の白兎伝説』や福本の白兎神社について広く知ってもらおうと、様々な準備がなされました」と、八頭町の地域おこし協力隊員、髙野実咲さん(44)が語る。地域おこし協力隊とは、定住を前提に都市部から地方に住所を移し、3年までの任期で住民の支援などを行う期間限定の公務員だ。

 悪いことに、前回の卯年は2011年だった。3月11日に東日本大震災が発生し、観光関連の事業が行えるような雰囲気ではなくなった。

 かろうじて八頭町役場と同町観光協会が翌年に掛けて、『しろうさぎの道しるべ』と題した絵本や冊子を出版したり、町のマスコットキャラクターにウサギをモデルにした「やずぴょん」を選んだりしたが、不完全燃焼に終わった。

八頭町のマスコットキャラクター・やずぴょん

「次の卯年こそ」という思いで進めてきたのが今回だ。

「2021年5月、有志が集まりました。青龍寺住職の城光寺さん、福本集落で白兎伝説を研究している人、観光協会の事務局長、地域づくり活動に熱心な人、地域おこし協力隊員などです」と髙野さんが話す。ちょうどその頃、協力隊員に採用され、千葉県から移住した髙野さんも加わった。

左は前回の卯年に合わせて出版された絵本。右は福本在住で八頭町郷土歴史研究会の会長を務める新(あたらし)誠さん(66)が昨年出版した『山の白兎伝説の謎に迫る』(ぷらっとぴあ・やず内、うさぎテラス)

 メンバーは伝説から勉強し直し、議論を重ね、まずはウォーキングマップ作りに取り掛かった。

しかし大きな問題に直面することに…

 福本の白兎神社と青龍寺は欠かせないポイントだ。

 他にも白兎大明神を祀ってきた集落の神社。青龍寺と共に白兎伝説が伝わる慈住寺があった場所。ここは白鳳時代の「土師百井廃寺跡」(国史跡)でもある。東西92mと全国最大の規模の郡衙(ぐんが、律令時代の役所)跡となっている「万代寺(まんだいじ)遺跡」などもリストアップした。

 だが、大きな問題にぶつかった。

「古墳が多く、古くからの歴史がある地区だけに、遺跡の上には人々の営みが積み重なっています。このため、当時のものが見える場所は多くありません。例えば、万代寺遺跡も今はただの田んぼで、看板さえないのです」と髙野さんが語る。

「話を聞きながら回らないと魅力が分からない」と、住民の希望者をガイドに養成した。

 そして、約8kmのウォーキングコースと、約11kmのサイクリングコースを設けた。

「ガイドの始動は今年からです。雪が降る冬期はなかなか歩けませんが、春になったら桜や菜の花が咲き、新緑も美しくなります。氷ノ山の残雪もコースから見えます。秋には特産の柿が赤々と染まるのも印象的です。町内ではカワセミが見えるだけでなく、最近ではコウノトリも重そうに飛んでいます」と、髙野さんは伝説だけではないルートの魅力を紹介する。

八頭町特産の柿。昨秋は豊作すぎたのと、高齢化で収穫しきれなかったのだという

 八頭町観光協会の主任、佐藤竜也さん(37)は「郡家駅にはJR因美線が停まるほか、全列車が観光車両化された第3セクター・若桜(わかさ)鉄道の起点にもなっていて、鉄道ファンも楽しめると思います」と話す。