3人きょうだいのなかで「取り柄がない」
土屋が俳優になりたいと初めて思ったのは小学2年生のころ、映画『シザーハンズ』を見て、主人公が表現する切なさに感動したことだという(『週刊ポスト』2014年9月19・26日号)。ただ、姉と弟がいる3人きょうだいのなかでも、自分が一番取柄がないといつも思っていたそうだ。きょうだいそろって習っていた日本舞踊でも、弟の神葉(現在、俳優・声優)は全国大会で銀賞となる2位を獲得、姉の炎伽も4位になった経験があり、若柳流の名取でもある。姉はそれと同時にチアリーディングの社会人チームでも活躍し、妹の彼女にとっては憧れの存在だった(姉は現在、芸能活動も行う)。
そんな2人とくらべると土屋はパッとしなかったので、自分は何もできないと思い込んでいた。《芸能界に進んだのは、何か私だけができることを見つけたいと思ったからかもしれません》とのちに語っている(『週刊文春』2018年8月2日号)。
先述のオーディションでの受賞後、2008年に『トウキョウソナタ』で映画デビューを果たし、2011年にはドラマ『鈴木先生』で連続ドラマに初めてレギュラー出演、朝ドラにも『おひさま』(2011年)、『花子とアン』(2014年)とあいついで出演して徐々に注目されるようになる。
土屋太鳳が破った「朝ドラのジンクス」
『花子とアン』では吉高由里子演じるヒロインの末妹役を演じ、何度も不幸な目にあいながらも懸命に生きる姿が強い印象を残す。だが、じつはそのあとの仕事は一切決まっていなかった。当時19歳だった彼女は、これはまずいぞと思い、『花子とアン』の撮影と並行して、翌春スタートの朝ドラ『まれ』のオーディションを「通行人役でも何でもいいので」とマネージャーに頼み込んで受けさせてもらう。
オーディションは最終審査まで残った。そこでは、中学のときに精神的につらくて学校に行きたくないと思った時期、朝ドラ『どんど晴れ』を見て頑張ろうと思ったことなどを精一杯伝えたうえ、最後に部屋を出ていくときには、思わず「チャンスをください!」と口にしていた。監督やプロデューサーは、その前まで彼女にはヒロインの友達役で出てもらうつもりでいたが、最後の一言でヒロインに決めたと、あとになって彼女に話してくれたという。
朝ドラではそれまで、ヒロインの妹役を演じたら、その後の作品でヒロインにはなれないとのジンクスがあり、土屋はそれを承知のうえダメ元でオーディションにのぞんだ。しかし、彼女は強い願いによってそのジンクスを打ち破った。以後、高畑充希、杉咲花、清原果耶らがこれに続き、いまや朝ドラの妹役は将来のヒロイン候補ともいうべき位置づけにある。