高い打率を叩きだせる理由
川下 大貫さんは広告を成功するように作ると簡単におっしゃいますが、他の多くのクリエイターは大貫さんほど大量にホームランを打てないじゃないですか。なぜそこまで高い打率を叩き出せるのでしょうか?
大貫 表現だけの人や論理だけの人はたくさんいますが、その両方ができる人は滅多にいません。すごくいい論理を構築しても、それをきちんと表現としてジャンプさせないと結局伝わらないんですよ。
逆もしかりでなぜこのヴィジュアルなのか、デザインなのかを論理的に言葉でしっかりと説明できないものも伝わりません。僕は元々デザインが感性などの曖昧なものとされていることが嫌だったし、デザインをちゃんと言語化すれば、コピーどころじゃない強い武器になるという確信がありました。そこで会社を独立してから、デザインの言語化を意識的にチャレンジしていきました。売るための戦略、戦術、予想される効果を、デザインや絵を含めて普通の人でもわかるように全部ロジックで作っていったんです。
こうやって表現と論理の両方を自分でやってるから、伝えたいことを正しく、効率よく取捨選択し、最も効率よく伝達できるわけです。それが打率が高い理由だと思いますね。
「そもそも」発想
川下 ほかに広告を作る上で大切にしていることは?
大貫 「そもそも」発想が自分の特徴だと思います。「そもそもイメージ広告で本が売れるのか?」「そもそも、なぜ本を読まないのか?」「そもそも、なぜ読書家は大切に本を捨てないで本棚にならべているのか?」。そうやって常に本質から解決すべきだと考えているので、目の前の常識なんて気にもとめず、上流にさかのぼって自由に発想しています。
もうひとつカウンター発想も特徴かも知れません。問題に対して、だったらこうすればいいのでは! とカウンターのように返していく、運動神経のように切り返していく発想スタイルですね。良くないアイデアを見ると、もう次から次へとアイデアが湧いてきます(笑)。
ですから、上手くいってないことに対して、答を見つけることは難しくありません。問題が分かっていない企業の方が厄介で、その場合は問題を提示することがアイデアだったりするわけです。他には消費者感覚を持っているところも強みでしょうか。例えば新潮社から文庫の広告を依頼された時も「僕は本はそんなに読まないんですよね」って言ったんですよ。だからこそ、この仕事に向いてるんですよね。
「なぜ自分は本をそんなに読まないのか」から始まって、「そんなに本を読まない自分がどうしても読みたくなるにはどうすればいいか」そうやって発想しているわけです。誰も解けない難題を解くのが大好きなんですね。だから大企業のうまくいってない話を聞くとね、もうワクワクします(笑)。
川下 その難しい問題を解いて、クライアントにプレゼンするとみんな納得するわけですよね。どうやってプレゼンするんですか?
大貫 昔から苦労したことがないんですよね。正しくて機能する答は誰が見ても一目でわかるんです。正しい答を見るとクライアントはもうやりたくってしょうがなくなる。逆に論理だけでクライアントを説得したようなアイデアには全く突破力がありません。
もちろん自分の企画はかなり理詰めでできています。特にデザインや表現に対しての言語化は普通のクライアントでもデザインを理解できるように論理でできています。僕のプレゼンは特に営業ウケがいいんです。ひと目見て「これで売れる!」ってわかるからでしょうね(笑)。
中庸な広告は機能しない。
広告は極端でなければ機能しません。何でも、「そこまでやるか!」っていうぐらいにやる。情報が極限まで少ないシンプルなものか、情報が極限まで詰め込まれている濃密なものかの両極しかない(笑)。
シンプルにしたいなら極端にシンプルにしたい、安いなら極端に安く、高級にしたいなら極端に高級に。必要でないものは全くいらない、必要なものは全部入れる。そうやって、特化したものこそ伝達力を発揮する。僕はそれがコミュニケーションだと思っているんです。
そういう意味では、今は驚くほど中庸な広告表現が溢れている時代ですよね。もっと元気があって、突き抜けた広告を作る方法なんていくらでもあるじゃないかと思うんです。まあ元々現状否定というか、今の主流の逆を提示するのが僕のタチなので(笑)。
やっぱり、「新しいその先」を提示したいというのが体質としてあるんですよ。
構成・山下久猛(フリーライター)