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「この写真を加工して血痕をつけてほしい」フィリピンで取材をしていた記者を震え上がらせた“捜査幹部の言葉”

2023/02/07

genre : ニュース, 社会

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 こうした歴史的背景が、正直者がバカをみるような社会につながったのだ。ゆえに法律を守るという意識が芽生えず、コネとカネが優先されてしまうのである。それは貧困層にとっても好都合だった。たとえば警察や役人に賄賂を渡し、不法占拠地に家を建てたり、街頭を占拠して露店を営むなど、法に縛られない「グレーゾーン」で生活していたからだ。

 よく言われることであるが、フィリピンは「法治国家」というより、「人治国家」の側面が強い。

 その一方で、フィリピンは家族をとても大事にする国民である。陽気で明るく、特に高齢者に対する眼差しは温かい。日本のように孤独死を心配する必要もなく、老後は家族の誰かしらが面倒を見てくれるのである。仕事に対する考え方も異なり、フィリピン人は自身の生活や家族との時間を優先するが、日本人は職務のために家族や自分の命までをも犠牲にしてしまう時がある。

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 フィリピンは「ゆるい」かもしれないが、人間の幸福度を考えた場合、日本の物差しが必ずしも「善」とは言えないのではないだろうか。

マニラ湾をバックに佇む家族

賄賂ではないが、私にもこんな経験がある

 フィリピンはその腐敗ぶりからかつて「アジアの病人」とまで揶揄された。

 大統領の汚職を挙げても、1960年代半ばから約20年独裁政権を続けたマルコス大統領の不正蓄財、エストラーダ大統領(1998~2001年)も違法賭博による不正蓄財で有罪判決を受け、その後のアロヨ大統領(2001~2010年)も宝くじ基金を不正に流用した疑いで逮捕された。

アロヨ大統領

 国のトップによるこうした不祥事だけでなく、政府高官による汚職も度々、報じられている。中でも国家警察や国家捜査局(NBI)、入国管理局といった治安当局は、相手が先進国出身の外国人になると「本領」を発揮する。

 違法薬物で逮捕された日本人男性の中には、カネで解決したケースは少なくない。特にフィリピンは日本と異なり、違法薬物の罪は重く、一定量以上の所持者は終身刑に処される。起訴までいくと取り返しがつかなくなるため、送検前の早い段階でカネを積んで釈放してもらうのだ。

 賄賂ではないが、私にもこんな経験がある。

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