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 ある日本人男性が射殺された事件で、犯人が見つからず捜査が難航していた時のことだ。捜査本部の幹部から、

「この写真を加工して血痕をつけてほしい。手伝ってくれないか?」

 という話を真顔で持ちかけられた。

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 血痕をつけることで、事件を別の展開にでっち上げようとしたのだ。

 恐ろしくなった私は、丁重にお断りした。

「アジアの病人」から脱出へ

 異国のこうした「特殊事情」の潮目が変わり始めたのは、2010年に就任したアキノ大統領以降だろう。約6%という安定した経済成長を維持し、特に汚職疑惑が指摘されることもなく、クリーンな政治を続けた。16年に就任したドゥテルテ大統領は、フィリピンのこうした腐敗ぶりに初めて真っ向から立ち向かった政治家だ。

 それを象徴する政策が「麻薬撲滅戦争」である。薬物常習者や売人ら約6000人が国家警察によって殺害され、欧米諸国を中心に国際的には批判を浴びた。だが、今回の入管の腐敗ぶりからも分かるように、取締りを徹底しなければ改善の余地がないほどに、フィリピンを取り巻く社会情勢や環境は危機的状況にあったのだ。

モンテンルパ刑務所の受刑者たち

 人口約1億900万人の1割が海外へ働きに行く出稼ぎ大国ゆえ、渡航先の事情と自国を比較すれば、さすがに「おかしい」と気づくだろう。だからドゥテルテの強行姿勢は、「よくぞやってくれた」と胸のすくような思いを国民にもたらし、80%前後という驚異的な支持率を維持していたのだ。それはフィリピン在住が長い日本人にも、共感されていた。そのドゥテルテが2番目に力を入れたのが「汚職対策」で、国家警察と国軍の給与を2倍に引き上げた。

 もっとも歴史的、政治的に染み付いてきた腐敗体質が一朝一夕に改善するはずがない。それはたとえば、日本で2万人を超える自殺者数なかなか減らないのと同じような社会の病理かもしれない。

 昨年6月に就任したばかりのフェルディナンド・マルコス・ジュニア大統領も、ドゥテルテの政策を踏襲する方針を示しており、フィリピンにおける法と秩序の問題や汚職対策は現在、その過渡期にあるのだ。

 そのマルコス大統領が2月8日に来日する。それに合わせて日本人容疑者4人の強制送還が調整されているが、うち2人は7日に実現する予定だ。残り2人も一緒に送還されるかどうかはまだ不透明で、フィリピン司法当局の判断に委ねられている。

写真=水谷竹秀

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