こうしておじさんファンたちは、韓国の音楽市場やファンビジネスの軸となり、次々と新しいファンダム(ファンの組織、団体)ができた。
たとえば、年下の男女グループが好きな女性ファンは姉ファン、韓国語で「누나팬(ヌナベン)」、年齢がかなり上の人はおばさんファン、「이모팬(イモベン)」という。BIGBANGのような男性グループを応援するおじさんファンは兄さんファン、「형님팬(ヒョンニムベン)」と呼ばれる。
「日本での失敗」から学んだこと
2005~2006年頃、音楽業界はドラマと同じようにK-POPを日本で普及させることを真剣に考えるようになった。『冬のソナタ』などのドラマを中心に中高年の女性ファンを獲得していた韓流。若者や男性ファンを増やすことが課題となっていた時期に、少女時代、KARA、Wonder Girlsといった第2世代のガールズグループが登場した。
韓国でおじさんファン層を築いたガールズグループは、日本の男性アイドルオタク層にも届くはずだと思ったが、結果はさほどのものではなかった。やはり韓国ドラマファンは、男性のK-POPグループを応援する。そして韓国のガールズグループは成人男性ファンを獲得できなかった。
韓国の成人男性ファンの間で流行っているものが、そのまま日本に伝わるという考えは浅はかだったのだろう。アイドルの成長を見守るという価値、いつでも会えるファンとの距離感など、日本独特のアイドルオタク文化に精通できていなかった。
しかし、30代を中心とした若い女性ファンへの展開は成功した。BIGBANG、東方神起、SUPER JUNIORの人気は、韓流ドラマに興味がなくてもK-POPを楽しむ新しいファン層を作り出した。この世代はネットでの情報収集を積極的に行い、韓国でのライブツアーを韓国専用のチケット販売サイトで予約して、韓国旅行を楽しむようになる。この時期から各グループのオンラインファンクラブ事業が活発になり、ECサイトやネット通販などのビジネスが拡大した。
K-POPが変えた! 音楽は聴くものではなく観るもの
K-POP関係者は異口同音に、K-POPグループが成功するためには4つの要素が必要だと主張する。それは、「魅力的なルックス」「素晴らしいステージパフォーマンス」「一流のミュージックビデオ(MV)」「世界のトレンドを反映した音楽」。そのなかでもMVは、世界展開のカギを握ると言われている。
MVはCDの販売を促進するためのマーケティング・広告ツールであることはもちろんだが、プロモーションビデオの効果を超えて一つの作品として捉えられるジャンルであり、高い芸術性を持っているからだ。MVは音楽の世界観やメッセージをビジュアルとストーリーで観せることにより、言語の理解を超えた共感や印象を与えることができる。