殺生石までは整備された遊歩道を5分程度歩く必要がある。遊歩道脇一帯には、1メートル以上ある大きな石から小ぶりの石まで無造作に転がっており、荒涼とした風景が広がる。「立入禁止」と書かれた立て札の奥に、真っ二つに割れた殺生石があった。周囲には似たような石がたくさんあり、草木も枯れているからか、なんだか物寂しい。
このあたりでイノシシ8頭が死んでいたのだろうか――。想像するだけで異様な光景だ。
那須町観光協会に殺生石が割れた経緯やイノシシが死んでいたことについて尋ねると、女性職員は次のように話した。
荒涼とした石場で死亡していたイノシシの家族
「昨年の3月5日に殺生石を訪れた人から『石が割れている』との連絡があり、職員たちが現地で割れているのを確認しました。その1週間前には割れていなかったことから、この間のどこかで割れたのではと考えています。
最初に殺生石が割れたと聞いたときは『え!?』と思わず声が出てしまうくらい驚きましたね。私たち地元の人々にとっては身近な存在ですから」
女性職員によると、殺生石が割れてから数か月後にイノシシが死んでいたのだという。
「昨年12月に殺生石の周辺でイノシシ8頭が死んでいるのを確認しました。3頭が成獣で、残りがウリボウでした。イノシシの家族だったのでしょうか。このあたりで動物が死んでいることはたまにあります。昨年11月と今年の1月にも、キツネが1匹ずつ死んでいたんです……」
殺生石が割れたうえ、動物が死んでいたことで様々な憶測を呼んだというが、いずれも「自然現象」だと環境省の担当者は断言する。
「いろんな噂があるのは承知しておりますが、殺生石が割れたのは自然現象です。実は前々から石にはひびが入っていました。ひびから雨などの水が入り込み、水が凍って膨張したことで割れたのではないかと考えられます。要するに風化です。
イノシシが死んでいたのも自然現象です。動物たちは暖かさを求め、殺生石あたりの地温が高いところに行こうとします。この一帯は硫化水素が絶えず噴出していますが、空気よりやや重いので下にたまりやすく、姿勢の低い動物がこの硫化水素を吸い込んで死んでしまったのではないかと考えられます」