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 普通の人を自然に演じられるからこそ、見る者は彼女に自分や身近な人を重ね合わせて共感を抱けるのだろう。映画『何者』(2016年)で同年代の俳優たちとともに就活生を演じたときも、有村の役はあまり特徴がなく、演じながらもこれでいいのかなと思う部分が多かったという。だが、共演者のひとりだった二階堂ふみは彼女の演じる役を見て、《エンジェルだ! と思ったの。クライマックスなんて、架純ちゃんに救われた思いがして、圧倒的にヒロインになれる女優さんなんだなって感動しちゃった。役柄自体が華々しいわけじゃないのに、ちゃんと大事な場面では作品の華になれるのって、本当にすごいことだから》と絶賛した(『an・an』2016年10月26日号)。

『何者』

30代を前に抱いていた危機感

 本人はこれまで多く演じてきた役を「“ザ・主人公”ではない主人公」と表現している。先述の二階堂ふみの評からしても、そうした役柄で俳優として地歩を築いたのは間違いない。ただ、20代も終わる頃には、本人のなかで、《30代に向けては幅も持たなくてはと思います。今まで私がやらせていただいてきた役は、20代だからこそできた役で、今後は職業ものなども加えていかないと、どんどん幅が狭くなっていってしまうな、と今もすごく考えています》と、危機感も生まれていたようだ(『日経トレンディ』2021年12月号)。

 別のところでもやはり、《少しずつ間口を広げていきたい》と述べつつ、《かといって、これまでやったことがなかったような役をいきなりやったらみてくださる方も戸惑うし、自分もギャップに苦しむことになると思うんですね。だからちょっと行って戻って、また行って……を繰り返して、いつの間にか幅が広がっていた、というのが理想です》と語っていた(『Pen』2021年2月1日号)。

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©文藝春秋

「泥をかぶるような役をやってみたい」

 いまはまさに有村にとって「ちょっと行って戻って、また行って」という過渡期にあたるのかもしれない。前掲の『Pen』の記事では、いままでいわゆる職業ものをやったことがないので、《誰かのために汗水流して、泥をかぶるような役をやってみたい》と語っていた。その目標も、昨年公開された映画『前科者』で、元受刑者の更生を助ける保護司(国家公務員でありながらボランティアという特殊な仕事とはいえ)を演じたことで、まずは達せられた。

 もちろん、初めての大河ドラマである『どうする家康』も彼女にとって大きな挑戦であることは間違いない。史実では悲劇的な結末を迎える瀬名の役を生き抜けたあとで、俳優・有村架純はどんな境地に達するのだろうか。