2011年3月11日に起きた東日本大震災による、福島第一原子力発電所事故。全町避難で無人地帯となった福島県富岡町に残り、動物たちの世話をしながら、今もたった1人で暮らすのが、松村直登(以下ナオト)さん(63)だ。

 そんなナオトさんの10年近くを追ったドキュメンタリー映画『劇場版 ナオト、いまもひとりっきり』が完成した。公開に先立って、富岡町に通い、ナオトさんや動物たちを撮り続けてきた中村真夕監督にお話をうかがった。

(全2回の2回め/前編を読む)

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ナオトさんと中村監督

ジブリアニメみたいにピョンピョン跳ねながら散歩する猫

――監督ご自身は、それまであまり動物と接する機会はなかったんでしょうか。

中村 私は猫が好きで飼っていました。だから、つい猫を熱心に撮ってしまって、映像を見た人には「なんか猫のカット多くない?」と言われます。シロとサビは、ナオトさんと散歩に行くんですよ。ジブリアニメに出てくる猫みたいにピョンピョン跳ねながら、ナオトさんと一緒に近くの牧場まで出かけて行くんです。

ナオトさんと散歩する猫たち

 動物は少しずつ亡くなってしまうんですけど、いつも行くたびに、新しいファミリーが増えています。この前は合鴨がいっぱいいましたし、ヒヨコを突然飼い始めたり、イノブタが牛の飼料を食べに来るようになっていたり。

 私はナオトさんも動物も、同じように撮っている感覚です。多分彼の目線が、動物を世話するというより家族を見るような感じだからだと思います。映像に登場する半谷さんという元牧場経営者の老夫婦も、同じように「動物を家族として見ている」感覚の人たちだと思いました。

写真:太田康介

お父さんが亡くなり、オリンピック、コロナ騒動があった10年

――「子どもの頃からミルクあげて育てたんだ」と牛のことを話していたご夫婦ですね。そういえば、本作は福島の方言がわかるように字幕がついてますね。聞きなれない言葉を聞き漏らしてしまうことがなくて、ありがたいです。

中村 富岡町はかなり方言が強いですよね、私はこの町に通い続けているうちにだいぶ聴き慣れました。今では、方言がわからなかったら通訳もできますよ。

――「20XX年X月」という年月の表示があるのもわかりやすいですね。10年という長い歳月の、いつ頃に何が起こったのかがよくわかります。

中村 10年の間、途中でナオトさんのお父さんも亡くなったし、世間的にはオリンピックがあった他にも、コロナが蔓延したりしました。コロナのときは、東京と福島が逆転したような印象でした。以前は「福島の人は放射能が……」なんて差別的に見る人がいたけれど、コロナ禍では東京の人が「コロナウイルスが心配だから来ないで」と言われていた。2020年の春頃は、東京の街では店も閉まっていてグレーな印象だけど、福島は桜が満開でした。