値上げを賃上げにつなげられるか
今、原材料高が外食業界全体に襲いかかっている。マクドナルドは2022年、3月と9月の2回値上げに踏み切った。回転ずしチェーンも一皿100円の維持が困難になり、スシローはいち早く2022年10月からの値上げを発表した。くら寿司も10月に1皿110円を115円にするなどの新価格に移行した。
牛丼店「すき家」やファミリーレストラン「ココス」などを展開するゼンショーホールディングス(HD)は30年まで賃金のベースアップを毎年実施すると宣言している。
小川賢太郎会長兼社長は「国際インフレで原材料価格が上がっているからといって、賃上げをためらうのは完全に誤りだ。再浮上の鍵を握るのは我々流通・サービス業だ」と語る。小川氏はサービス産業がGDP(国内総生産)の7割を占め、就業者の7割が従事しているとした上で、「マクロ経済を浮揚させるには賃上げが欠かせない。GDPの多くは第3次産業であり、日本経済の根幹は個人消費だからだ」と主張する。
サービス産業について研究している京都大学経営管理大学院の原良憲教授は、「製造業は自動化で浮いた人員を別の事業で吸収できたが、サービス産業は失業につながってしまう。どう産業全体を維持・発展させていくかは大きな課題だ」と指摘する。
外食産業は「低い参入障壁」に起因する値下げ競争に追い込まれ、それが人件費を圧迫する悪い連鎖から抜け出せていない。経営改革と賃上げを同時に進めるという難題に立ち向かわなければならない。
円安の進行で、「日本の外食は安過ぎる」という指摘がさらに聞かれるようになった。輸入品の調達コストはさらに上がり、エネルギー価格も高騰が続く。無理に価格を維持しようとすれば、またも限界を超えたコスト削減に踏み切らざるを得ず、不祥事などのひずみが噴出する恐れがある。
外食は価格帯によって消費者が求める体験の価値が変わる。工業化に磨きをかけて価格帯を維持するのか、それとも値上げに見合うように顧客体験を変えていくのか。場合によっては業態ごと刷新する必要が出てくるかもしれない。
「今は好調でも来年どうなるか分からない。変化をずっと続けられる組織こそ理想」と日本マクドナルドHD元副社長の下平篤雄氏は語っていた。外食デフレで成長し、コロナ禍でも勝ち組と言われたマクドナルドや回転ずしチェーンがこれから問われるのは、インフレ局面での打ち手だろう。
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