オープン当初は「低価格・高品質」で客の支持を集めた新興ハンバーガー店は、なぜ2年足らずで全店閉店してしまったのか?

 成功の方程式にとらわれた「ブルースターバーガー敗戦記」を、日経ビジネス記者の鷲尾龍一氏の新刊『外食を救うのは誰か』より一部抜粋してお届けする。(全3回の1回目/#2#3を読む)

オープン直後は大人気だったのに……「ブルースターバーガー」はなぜ閉店してしまったのか? ©筆者撮影

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昼時でも店内は閑散…「ブルースターバーガー」の末期

 2022年6月中旬、東京・渋谷駅から徒歩3分ほどの繁華街にあるハンバーガー店「ブルースターバーガー渋谷宇田川店」を訪れた。「6月末で閉店するらしい」。そんな情報を関係者から入手したためだ。

 新型コロナウイルス禍のさなかの2020年11月、1号店(中目黒店、東京・目黒)が開業したブルースター。スマートフォンアプリによる注文システムとキャッシュレス決済を活用した「ほぼ非接触」のテークアウト専門店として注目され、筆者も記事を書くために買いに行ってみた。それから1年半、多店舗展開を目指しているはずのブルースターが旗艦店である渋谷の店舗を閉めるという。まずは現地を見てみようと思い立った。

 最初に違和感を覚えたのは、店の前に置かれた看板の文字を目にしたときだった。「ゆったりソファー席! 奥に広々50席」と書いてある。一般的な飲食店であれば普通のうたい文句だが、ブルースターはテークアウト専門ではなかったか。

 やや戸惑いながらも、かつて1号店の開業時に使ったスマホアプリで注文しようとした。すると、なぜかアプリの再ダウンロードを求められてしまう。注文用のセルフレジが店内に置かれているのが目に入ったので、そちらで注文することにした。画面をタッチしてメニューを選ぶと、支払いに「現金」の選択肢が出てくる。どうやら「完全キャッシュレス」もやめたようだ。

 待つこと数分、出来上がったハンバーガーは1号店で食べたときのものとは大きく変わっていた。以前は一般的なハンバーガー店と同程度の片手で持ちやすいサイズだったが、一回り大きく、真上から串を刺さなければ倒れそうなものになった。

 渋谷宇田川店の「チーズバーガー113」は600円(税込み)。確か、1号店に行ったときは「ブルースターチーズバーガー」が300円程度だったはずだ。後から調べたところ、1号店などはその時点までにブルースターチーズバーガーを400円程度に値上げしており、渋谷宇田川店でさらに高価格の商品を出し始めたようだ。

 ある業界誌は、ブルースターの新しいメニューを「これぞグルメバーガー。ぜいたくな味わいだ」と評価していた。筆者もおいしいとは感じたが、その日は昼時にもかかわらず店内は閑散としていた。近くの「マクドナルド」のレジ前に行列ができているのとは対照的だった。