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 キャッシュレスでの決済を避ける消費者も取り込もうと現金対応のレジを店頭に設置。SNS(交流サイト)などでの情報の拡散を期待し、ハンバーガーは大きく、見栄えが良いものに改良した。できたてを食べてもらえる約50席の座席も用意した。 

ブルースターバーガーのメニュー表(画像:公式インスタグラムより)

 それが、ブルースターの強みを失う改悪となった。

 座席のスペースを設ければ店舗面積は広くなり、その分家賃は高くなる。トレーなどの食器や椅子・テーブルなどの設備も整えなければならない。さらに、商品の大型化は原材料費の上昇を招く。結局、単価を上げなければならず、消費者にとってのコストパフォーマンスが低下してしまう。

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 社内ではそうした課題を危惧する声も上がっていたが、外食チェーンの「定石」を主張する声にかき消された。店舗のコンセプトを練ったキーパーソンは会社から去った。

 折しも、外食業界ではファミリーレストランが主体のロイヤルホールディングス、居酒屋がメインの鳥貴族ホールディングスなど様々な企業がハンバーガー店への参入を進め、競争が激化していた。消費者から見たその頃のブルースターには、注文や受け取り時の行列を避けられるという利便性も、「手ごろな価格でおいしい」という特徴もなかった。自ら「レッドオーシャン(競争が激しく利益が出づらい市場)」に飛び込んでしまっていた。

使えなくなった顧客情報

 止められなかった改悪に、思慮不足も重なった。開業以来、積み重ねてきた約3万人の会員データを実質的に失ったのだ。

 現金が使えるセルフレジを新たに導入しようとしたところ、キャッシュレスのセルフレジやスマホアプリの開発を任せてきた企業では対応できないことが分かった。新たに現金対応のセルフレジだけを開発すると、複数のシステムから並行して注文が入ることになってしまい、調理現場に混乱を招く恐れがある。注文情報を円滑に伝達するためにはスマホアプリとセルフレジの両方を1社に任せた方がいいという方針に傾いた。結局、現金対応のセルフレジの開発を新たな企業に委託し、その企業がスマホアプリの改修も請け負うことになった。

 その結果、ブルースターは会員の情報や注文履歴のデータを引き継げなくなった。一度アプリをインストールしていた会員たちも、インストールし直してクレジットカードなどを再登録する必要が出てしまった。つかみかけた常連客の離反を招いた上に、会員にプッシュ通知でクーポンを届けるといった再来店を促す施策も採れなくなった。新たに委託した企業は、現金を取り扱うシステムの開発は得意でも、スマホアプリの開発は不慣れ。「ブルースターの新しい注文アプリは使い勝手が悪くなった」と外食関係者の間で話題になるほどだった。

 ブルースターの業績は崖から落ちるように悪化した。神戸市と東京都立川市のフランチャイズ店は5月に営業を終了し、1月オープンの渋谷宇田川店も開業からわずか半年での閉業となった。そして7月31日、最後に残った1号店も幕を下ろした。閉業直前に訪れた1号店では、開業後に話題になった「受け渡しロッカー」が撤去され、新たに置かれた座席がむなしく空気を抱いていた。

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。