1人だと食事時間が短いため座席の回転率を高めやすく、食材にコストをかけたり価格を下げたりする余地が生まれる。そうした従来にない着眼点で「焼肉のファストフード」という市場を切り開いた。そんな実績がブルースターの開業を後押ししたわけだ。
開業の準備を進める中でやってきたコロナ禍も追い風と見た。料理宅配「ウーバーイーツ」が2016年に日本で始まってからじわじわと普及していたデリバリーが、テークアウトとともにコロナ禍で一気に拡大。消費者も外食店も「レストラン=店の中で食べる」という固定観念から解放された。外食店にとって当たり前だった店内飲食の機能を省いてコストパフォーマンスを高めるというコンセプトは、きっと消費者に刺さると考えた。
ブルースターの狙いは当たった。開業直後は注文が殺到。スマホアプリの挙動や店舗の運営が洗練されていなかった側面もあるが、受け渡しが注文の2〜3時間後になることもあった。店舗面積16坪という狭さながら月商は800万円を超えた。フランチャイズ店を開きたいという声も届いた。
そこでブルースターが掲げたのは「国内2000店舗」という野心的な目標だ。国内トップのマクドナルドは2022年9月末で約2900店舗。圧倒的な巨人に対抗しようと意気軒高だった。
「行列」の呪縛
過去に焼肉店「牛角」を立ち上げたダイニングイノベーション創業者の西山知義氏も、多店舗化に力を入れる方針を明確にしていた。ブルースター開業後、『日経ビジネス』の取材に「FC(フランチャイズチェーン)展開を最速で広げられる業態だ。まだ1店舗なのに、FCに興味を示す経営者から既に80件以上の問い合わせがきている」と手応えを語っていた。店舗を増やせばスケールメリット(事業規模が大きくなることに伴うコスト削減などの効果)が拡大し、さらにコストパフォーマンスを高められるという目算があった。
関係者によると、この頃から「出店希望者をさらに増やすため、店のにぎわいを見せた方がいい」という声が社内で上がり始めた。それは昔ながらの「外食チェーンの成功の方程式」だ。
店外に続く行列、客でにぎわう店内、見栄えが良く人に伝えたくなる商品……。目に見える繁盛ぶりが消費者を呼び込み、フランチャイズ出店の希望者を引き付ける。店舗が増えればさらに認知されるようになり、もっと多くの消費者が訪れるという成長のスパイラルを実現する手法だ。多くの外食チェーンはこの方程式に従って店舗数の拡大に取り組んできた。
そうしてブルースターが2022年1月に開いたのが、コンセプトを新たにした渋谷宇田川店だった。誰もが知る繁華街で成功すれば、ブランドの知名度は一気に高まる。多店舗化加速の足掛かりにする狙いだった。