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「どうしても我慢できなくて、公衆便所に駆け込むことも」実際に住んでた若者が語る、風呂無し物件のリアル

2023/02/16
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月4万円の築古アパートで待っていたもの

 見つけた物件は幡ヶ谷の4畳半アパート。家賃は3万8000円でプラス管理費2000円の合計4万円。建物は築60~70年ほどとかなり古く、トイレも共同だった。

「小さなアパートで隣に大家のおばあさんが住んでいて、僕の他に入居者は2世帯だけ。ほとんど交流はなかったです。一度隣の人の部屋のドアが開いていたので中を覗いてみたら、ゴミだらけでした。建物は完全に昭和でしたよ。窓は古いすりガラスで鍵はいわゆるねじ込み式。部屋には小さな流し台があるだけでコンロを置くスペースもなかった。

 それでも劇場やバイト先まですぐチャリで行けるし、芸人の仲間や先輩と会うのもだいたい渋谷周辺でしたからずいぶん助かりました。光熱費もかなり安くて、ほとんど基本料金ぐらいで済んでいたと思います。

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 銭湯やワンコインシャワーもほとんど使わなかったですね。銭湯って意外に高くつくんです。僕が風呂無し物件に住んでいた最後の頃の東京の銭湯は1回480円(現在は500円)で、計算したら1カ月で1万4400円。それならバイト先で入ればいいし、なんならそれまで居候していた友達の部屋もチャリで行ける距離でしたから、どうしても風呂に入りたいときはそっちを頼ってました」

 特に不便も感じず住んでいた物件だが、1年ほど経った頃に大家さんが亡くなってしまう。建物は息子さんが相続したが、これを機に古いアパートを建て替えることになり、高原さんは引っ越しを余儀なくされた。

「急に出て行ってくれって言われて仕方なく新しい部屋を探すことになりました。条件は変わらず、とにかく安くて渋谷近辺に自転車で通える距離の場所。ただ、この時はなかなか条件に合った物件が見つからなくて、ネットでも探したんですがヒットしたのはたった2件。その物件も少し高かったり遠かったりだった。

 それで今度は渋谷でたまたま前を通りかかった不動産屋に飛び込んで探したところ、ちょうどいい物件があったんです。そういえば、その不動産屋の入っていたビルも、昔のデパートにあるようなガチャガチャ押すボタン式のエレベーターがついていて、かなり古い建物でした」