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「自分の力が一番入るポイント、僕が教えるのはそれしかないんだよね」

 指導の中身について、城島が丁寧に教えてくれた。

「自分の力が一番入るポイント、力を伝えられるポイント。僕が教えるのはそれしかないんだよね」

 たとえばエンストした車を押すときに肘は伸ばしているのか、曲げるとすれば最も力が入るのはどの角度か。足のスタンスの広さ、腰を曲げる角度も同じ。

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 野球以外のあらゆるシチュエーションを想像させたという。腕相撲のとき、柔道で相手を投げるときは?

「腕を伸ばしたままだと力は入れづらいでしょ。柔道だって自分の手が体の近くを回るから力が入る。特に男性の場合は元々力が強いから手先に頼りがちだから、女性を例に話もしました。たとえば赤ちゃんを抱っこするとき。父親は腕が疲れるって言うんですけど、母親は腰とか足が痛くなるっていうんです。それはしっかり体を使えている証拠です」

野村勇 ©田尻耕太郎

 その中で城島は、野村勇のスローイングに着目した。

「12球団の全部を見ているわけではないけど、彼は本当にトップクラスだと思います。自分自身では意識をしていないけど、自分の体の使い方が上手だから肩も強いんです。力の伝え方って基本的に一緒。軸がズレて体の外にあると、力を伝えるのは非常に難しくなる」

 野球の動作でいえば、体の軸から腕が遠回りしないこと。あるいは足の運びも同じだ。野村勇はチーム首脳陣の中で「周東(佑京)よりも速い」と評価されるほどの俊足の持ち主。もちろん身体能力の高さもそれを生む理由の一つだが、自分の能力を上手に発揮できる動かし方を身に着けているからとも表現できる。

 城島は続ける。

「走る、投げる、打つ。僕は全く一緒のことだと思っているんです。投げるように打ってほしいし、走るように打ってほしいと説明しました。彼の中では別のものだと考えていたんで、一緒なんだよ、と」

 バットを使うのだって、体の軸の近くを回すほうが力を効率よく伝えることが出来る。野村勇はもともとミートポイントが体の前にある、いわゆる「前さばき」のタイプだったが、今はボールを呼び込んで引きつけて打つ意識に取り組んでいる。

 城島は現役時代、「丹田(へその拳1個分下あたり)の前が一番力を伝えられる場所」と話したり、自分の打撃を「でんでん太鼓」と例えたりしていた。

「イメージするのは、一緒にやっていたときの井口資仁さん」

 城島塾に入門して1週間が過ぎると、キャンプメニューも実戦モードに。シート打撃などで投手の生きたボールと対峙する機会がまずは成果を試す場となった。引きつけて打つ分、右方向への打球も多かった。それでも差し込まれている感じには見えない。また、城島は内角高めの球を打ち返した場面を一つ評価した。

「結果はドン詰まりのショートゴロ。だけど、去年までならば手が出なかったコースだと思いますよ」

 ルーキーイヤーでは本人の手応えはともかく、球史に名を刻む活躍を見せた野村勇。城島の目にはどんな将来像が見えているだろうか。

「僕が彼にイメージするのは、(ダイエーホークス時代に)一緒にやっていたときの井口資仁さん(前ロッテ監督)かな。同じ内野手ですし、身長も同じくらい。足も速い。打球の強さとかも考えたら、十分なポテンシャルを感じます。井口さんと僕はちょうど同じ時期に打撃についてチャレンジをしたことがあって、それ以降の数字というのは皆さんが知っている通り。スター選手になってメジャーリーガーにもなっていったわけですが、その過程を僕は一緒になってずっと見ていた。野村にもそうやって大きく成長してほしいという期待をもっています」

 まるで親目線といったように、城島は優しい表情でそのように語った。ただ、今回もそうだが「指導」という言葉を使うと城島はあまりいい顔をしない。

「もちろん僕のやり方に最初は違和感もあると思う。野村が今まで長い時間かけて作ってきたスタイルもある。それをダメだから全部変えなさいと言っているわけではなく、こういう方法もあるんじゃないかという選択肢を与えただけ。選ぶのは本人です。だから昨年の(甲斐)拓也にも『俺が言っていることが正解じゃないから、自分に合うやり方でやりなさい。元に戻しても他のやり方にしてもいいんだよ』と言っていた。言い方が悪いかもしれないけど、プロ野球ですから自分の責任は自分が取る。僕よりも現場で一番見てくれているコーチや監督と話しながら方法を選んだらいいと思っています」

 そう言い残して、城島は一旦チームを離れた。

「キャンプ中は宮崎には戻ってきません。絶賛放送中の釣り番組も待ってますから。釣り人が僕を待ってる。海に戻らなきゃいけないんです。3月にまたオープン戦で、皆さんの練習の仕上がり具合を見に行きたいと思います」

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