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ユニクロ潜入でわかった、ジャーナリストが当事者になるべき理由

横田増生×佐々木俊尚 『ユニクロ潜入一年』を語る(前編)

絶対に落としてはいけないメモ帳

 佐々木 それは文章の行間からも伝わってきました。登場する正社員やパートの人が魅力的で、横田さんの人間観察の賜物ですね。リアルな人間性は、内部に入り込むことでしか知ることができない。潜入取材の大きな意味だと感じました。

 横田 中には尊敬できる人格者もいましたので、なるべく迷惑がかからないように気をつけました。ビックロの総店長のように、ろくでもない悪者社員ばかりだったら、こちらも一気に書けるんですけどね。ただ、アルバイトを始めた1店舗目だけでは、きっと本にはならなかった。怒鳴り声が飛び交ったり、無茶な勤務を要求されたりした、ビックロ勤務という大きなプレゼントが3店舗目にあったからこそ、1冊書き上げることができました(笑)。

 佐々木 読み進めていて、ビックロの章になった瞬間に、妙なカタルシスを感じました。

 横田 バイト中に言われたことや聞いたことをメモ帳に書き溜めていくんです。ユニクロでは、メモをしていると「仕事をしている」と褒められる。100均でメモ帳を買ってポケットに入れながら作業していたんですが、数えたら1年間で30冊ぐらいになっていた。僕の名前が書いてあって、部長会議ニュースからの抜粋やら、普通のアルバイトなら書かないような数字が記されているので、絶対に落としちゃダメなんです(笑)。

 佐々木 物流業者だとか、仕入先の会社名だとか……。

 横田 同僚のプロフィールなんかも書いてありますね。「子どもが3人いて、お花とバレエを習っている」といった具合に。

横田氏が勤務していた新宿にあるビックロ ©文藝春秋

第三者的な取材者ではリアリティがない

 佐々木 私もジャーナリストを名乗って取材活動をしていますが、「書くってどういうことなんだろう」と最近よく考えるんです。一番大きかったきっかけは、3.11ですね。震災後、私も仕事柄、現地に入って被災者から話を聞きました。一方で、被災者自身もブログやTwitter、YouTubeなどで情報発信をしている。そっちの方が圧倒的に迫真性と迫力があります。それなら、第三者的な立場の取材者が聞き書きをして、ストーリーを書くと、読者にとってはリアリティがないんじゃないか。そんなことを考えています。

 横田 なるほど、当事者性が重要だということですね。

 佐々木 だから、少しずつスタイルを変えていて、自分自身が興味を持ったら、まずは当事者になってみるようになりました。例えば、ここ3年ぐらい、若者の地方移住が増えつつあります。普通の取材なら、田舎に移り住んだ若者を捕まえて、話を聞きますよね。私の場合は、福井に家を借りて、多拠点居住をやっているんです。それで、現地の若者と交流したり、一緒にイベントをやったりしている。そうすると、新しく見えてくる世界があります。

 横田さんはこんな理屈で動いているわけではないと思いますが、潜入取材という手法は、SNS時代に適合した新しいジャーナリズムの形なのかもしれません。