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ユニクロ潜入でわかった、ジャーナリストが当事者になるべき理由

横田増生×佐々木俊尚 『ユニクロ潜入一年』を語る(前編)

実はユニクロはSNSの空白地帯になっている

 横田 SNSといえば、ユニクロでは、SNSでの発信は一切禁止されているんです。

 佐々木 SNS一切禁止?

 横田 最初に誓約書を書かされるので、ユニクロの業務内容については発信できません。例えば、休憩室で撮った写真もアップしちゃダメだと。

 佐々木 業務時間外も?

 横田 はい、守秘義務違反で、人事処分の対象となってしまう。だから、確かに3.11にしても、何か大きな事件があっても、誰かしら発信していますが、実はユニクロはSNSの空白地帯になっているんです。

 佐々木 ということは、Twitterで検索しても、ユニクロの従業員が発信している情報は出てこないわけですか。

 横田 ほとんど見かけませんね。

 佐々木 この時代にすごい話ですね。

 

新聞記者時代に感じた過剰な現場主義

 横田 逆に当事者が何も語れない会社であるからこそ、内部の情報に価値があるとも言えます。

 先ほど佐々木さんから「当事者」という話がありましたが、僕は、若い人にもっと「潜入ルポ」のような仕事をやってほしいと常々感じているんです。というのも、僕みたいな50代のおじさんだと、ユニクロの販売職に就くのは年齢的にギリギリ。20代だったら、何の問題もありませんから。

 佐々木 最近は、SNSなどを通じた内部告発を誰でもできるようになりましたね。横田さんがおっしゃったように、若いジャーナリスト、あるいはジャーナリストと名乗ってなくても、単なる普通の青年がある企業に勤務してその給料で生活しながら、同時に内部のことを書くことだって可能ですよね。もはや、企業のカラの内と外ってあまり意味がなくなってくる。じゃあ、プロのジャーナリストの必要性ってどこにあるのか、という疑問も出てきます。

 横田 だんだんと変化するんでしょうね。ただ、ある程度の知識や問題意識がないと「ルポ」として報じることはできません。例えば、決算書を読めなければ、現場での見聞と経営の状態がリンクしない。店頭で上司から「このままでは大変です。ユニクロという会社が潰れます」って言われたときに、隣にいた主婦の方は「そうなんですね……」と鵜呑みにしていましたが、ファーストリテイリングの決算書に目を通していれば、事実に即していないことはすぐにわかります。

 佐々木 そこはジャーナリズムの重要な機能ですね。きちんと資料を読み込むとか、流通業界の仕組みについて詳しいとか、前段の知識っていうのがあった上で取材に行く。新聞記者時代には、社内で本を読んでいると、「こんなの読んでいるくらいなら、夜回りしてこい」と言われるような風潮もあって、過剰な現場主義がはびこっていましたけど、予備知識もなしに現場に行っても意味がない。

 横田 僕も、流通業という“地の利”があったからユニクロに潜入できたわけで、例えば、全然知らない鉄鋼業界に入ろうと思ったら、イチから勉強しなきゃ役に立たない。ですから、ジャーナリストとしてのバックボーンは必ず求められてきます。

 佐々木 かといって、知識だけだと、これまた上から目線の俯瞰図のようになってしまう。時代を超えて読み継がれる素晴らしいジャーナリズムの作品は、やはりコンテキスト的な知識と、現場の生々しさが両立しています。そこが『ユニクロ潜入一年』の面白さの理由だと思います。

(「働いてわかった“デフレ・ビジネス”ユニクロの限界」に続く)

写真=白澤正/文藝春秋

ユニクロ潜入一年

横田 増生(著)

文藝春秋
2017年10月27日 発売

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