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 もちろん、シビアな水温コントロールを要求されるのは銭湯だけではない。水温が生き物の命に直接かかわる水族館もその1つ。池袋にあるサンシャイン水族館は、海水・飼料価格と光熱費の高騰を理由に3月から入場料を値上げすると発表している。サンシャイン水族館の二見武史部長はその決断の背景をこう語る。

巨大な水槽の水温を保つには多くのエネルギーが必要 写真提供:サンシャイン水族館

「水族館は命を扱っているので質を落とすわけにはいきません」

「電気代の値上げがあった昨年11月頃から当館も光熱費の負担は感じていました。しかし展示の質はもちろん、命を扱っているので飼育の質を落とすわけにはいきません。そのため、節電できるところとできないところを区別して考える必要がありました。

 飼育の機器や展示の照明を切ることはできませんが、バックヤードの一部の照明を暗くしたり、水槽の温度を生物に影響がない程度で調節することはしています。普段は25度に維持している水槽で、21度くらいまでは影響がないと思われても余裕を持って23度までの下げ幅にとどめる、といった細かい調整をしています」(同前)

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 ただし魚の種類によっては水温が適温から少しでもずれると大きな影響が出てしまうものもあり、調節できる生物と調節できない生物、それぞれを見極めた対策をしているという。

「具体的には、イワシの水槽はこれまで20度だったものを今は18度で運用しています。しかしイカなどの1年程度の寿命しかない生物は、環境の変化に敏感なので設定を維持しています。生物にとっては温度の変化は季節の移り変わりを意味するので、温度の変化を時間の経過と勘違いして寿命が短くなってしまうんです」

展示用の照明もLEDへの入れ替えを前倒しで進めているという 写真提供:サンシャイン水族館

 とはいえサンシャイン水族館にとっても今回ほどの光熱費の高騰ははじめてで、取り組みを始めてから2~3カ月が経った今もまだ試行錯誤の途中だという。電力各社は4月以降にさらなる値上げを予定しているが、サンシャイン水族館は様子を見ながら今後の対策を考えていく予定だという。

「今回の光熱費の高騰は、今まで当たり前だった体制をもう一度見直すきっかけになっています。水槽の温度設定も、前例を踏襲して25度なら25度で運用してきたのですが、生き物にとって本当に適切な水温は何度か、環境の変化がどんな影響があるのかということを考えるきっかけになりました。飼育というものにもう一度向き合うきっかけとして、前向きにとらえようと思います」(同前)

「これ以上ガス代が高騰したら本当に経営が…」

 高騰を続ける光熱費が国民の大きな負担になっていることを受けて、1月からは電気代、ガス代の負担軽減策「電気・ガス価格激変緩和対策事業」が始まっている。ガスや電気の小売業者を支援して、家庭への請求額を押さえる狙いだ。三の輪湯の渡辺さんはその効果に期待せざるを得ないと語った。

都内の銭湯は減少の一途をたどっているが、光熱費の高騰は追い打ちになっている

「値下がりすると期待しています。というより、値下がりしてくれないと困ります。これ以上ガス代が値上がりしたら本当に経営が立ち行かなくなるかもしれません。お風呂を楽しみに通ってくれているお客さんのためにも、備品やタオルの値上げはこれ以上したくないんです」

 世界の軍事情勢によって、日本のお風呂や水族館をはじめ多くの業種、家庭に影響が広がっている。この値上げ騒動はいったいいつまで続くのだろうか――。