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菅田将暉30歳に 「詐欺だと思いましたから」飛び入り参加のオーディションで主役に…順調すぎた俳優人生の“転機”

2月21日は菅田将暉の誕生日

2023/02/21
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『共喰い』の監督で、昨年亡くなった青山真治からも大きな影響を受けた。現場ではいろんなことを教わったという。映画公開時のインタビューでは次のように語っていた。

《俳優がアイディアを考えているとき、監督は時々近づいてきて、ぼそっとヒントになる言葉をくれる。その言葉がすごく響くんです。中でも『おまえの芝居はまだ4分の1拍子だ』と言われたことが印象に残っています。『人間の人生を表現するためには自分の中のものさしのメモリを増やしていかなくてはならない。演技も大変だが、音楽は16分の1拍子もやるのだからもっと大変だ。おまえは今の4分の1をさらに4分の1に分けた芝居を考えていかないといけないんだよ』と言われたんです》(『キネマ旬報NEXT』Vol.6、2013年9月14日号)

©文藝春秋

 監督は、4分の1の層になった感情をさらに16分の1へと細分化することで、役の感情にさらなる陰影を出そうとしたらしい。菅田はその要求に応えるべく必死に食らいついていった。ここから監督の想像をはるかに超えるものが生まれる。のちに青山は、《映画「共喰い」は完全に菅田将暉に征服された。「こんなはずじゃなかったのに」と、監督は悔し紛れに呟いた。もちろんそれは本望だった》と振り返った(『キネマ旬報』2017年10月11日号増刊)。

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 青山は同じ文章で、菅田の第一印象を《その目と眉から放たれる勘と癇(かん)の鋭さは初対面からすでに鬼や妖怪じみたものを感じさせ、役柄にも相応しくエキセントリックに釣り上がり、当然本当の鬼や妖怪ではないけれど、半人前の怯えまでも御誂え向きに擁していた》と書いていた。

他の俳優とは違う「個性」

 菅田の目に惹かれるつくり手は少なくない。フランスの作家アルベール・カミュの不条理劇『カリギュラ』を2019年に菅田主演で上演した演出家の栗山民也もまた、《僕は彼のお芝居をほとんど観たことはありませんが、テレビなどでちらっと観かけると、他の俳優とは違う現代の狂気をはらんだ目がとても印象的です。鋭角的で、とてもシャープな個性を持っていると思います》と語っている(『悲劇喜劇』2019年11月号)。

舞台『カリギュラ』(2019年)

 栗山は菅田の1枚の写真をずっと見ていて、彼を活かせる演目は『カリギュラ』しかないと思ったという。主人公の若きローマ皇帝・カリギュラは孤独に苛まれながら誰かを傷つけずにはいられない。理性と狂気のあいだを揺れ動くようなところもあるカリギュラが、菅田の姿と重なったのだろう。実際に彼はそれを見事に演じきってみせた。

 先に書いたとおり、菅田の役の幅の広さには驚くものがある。それもさかのぼれば、『共喰い』に出演したころに立てた目標に端を発する。

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