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映画、テレビ、舞台…「全部できる人が最強」

 そのころ、自分にとって大事なこと、やりたいものを探していくなかで気づいたことがあった。それは同じ演技の仕事でも、映画の人は映画の人、舞台の人は舞台の人、テレビの人はテレビの人という具合に境界線が定まり、「全部やっている人がいない」ということだ。ここから菅田は「もしかしたら、これが全部できる人が最強なんじゃないか」と思い、自分はドラマも映画も舞台も、主演も脇役も全部やろうと決意したという(『CUT』2018年3月号、『キネマ旬報』2017年10月11日号増刊)。

 そこには、ひとつのイメージに固定されるより、多くのイメージを持たれたほうが自由でいられるとの思いもあった。ゆえにオファーを受けた仕事は全部受けるよう心がけ、演技の仕事のみならず、ラジオや音楽にも活動の場を広げていく。

映画『帝一の國』(2017年)

 2017年には、劇作家・寺山修司の小説を映画化した『あゝ、荒野』のようなアンダーグラウンド寄りの作品に出演する一方で、コミックや芥川賞受賞のベストセラーが原作の映画『帝一の國』『銀魂』『火花』、ヒット曲誕生をめぐる実話をもとにした『キセキ―あの日のソビト―』とじつに多くの作品に出演、各映画賞で主演男優賞にも選ばれた。翌年のインタビューでは、こうした一連の評価は『あゝ、荒野』だけでは受けることはできなかったと思うと語り、同じ年に公開されたほかの作品を通じての認知度みたいなものも間違いなくあるとして、《そういったところを踏まえた上で、“王道”を突っ切っていこうと思いました》と宣言した(『キネマ旬報NEXT』Vol.19、2018年4月13日号)。

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自らオーダーした役柄とは?

 菅田将暉はいまやカリスマ性を帯び、若い世代に支持される存在にまでなった。きっかけの一つは、2019年にドラマ『3年A組―今から皆さんは、人質です―』で教師役を演じたことだろう。教師役は以前からやりたいと思っており、菅田が自らプロデューサーたちにオーダーして実現した。

ドラマ『3年A組―今から皆さんは、人質です―』(2019年、番組公式サイトより)

『3年A組』では、永野芽郁、今田美桜、片寄涼太など生徒役の俳優による迫真の演技も話題を呼んだ。もっとも、菅田に言わせると、当初、生徒役たちには熱量が足りていなかったという。それを彼は、自分がそれまで先輩たちにしてきてもらったことを思い出し、《でっかい背中で襲ってきて、俺たちはそれをどれだけ殴り返すか、みたいな感じでやってきて――だから、自分が10年で感じたものを全部ぶつけようという気持ちで》のぞんだ。すると《それが回を重ねるごとに伝わったのか、彼らの目つきが変わって一体感が出て、どんどん変わっていくのが分かった》という(『日経エンタテインメント!』2020年1月号)。

『3年A組』の教師役は、キャリアを積み重ねたからこそ成功したといえる。そう考えると、年齢を重ねることで菅田将暉の演技の幅はますます広がっていくに違いない。30代に入り、彼がさらにどんな変化を見せるのか、意表を突くような展開に期待が高まる。