好きだったこと
進むべき方向も見つからず、時間ばかりあるので、僕は毎日、部屋の掃除をしていた。
これまでしたことのない細かな場所、隅々まで丁寧に。コントの衣装や台本などは、芸人を辞めた僕には「もう必要ない」と、思い切って捨てていった。
寂しくはあったが、ガランとした部屋を見渡したら、意外にも気持ちが少しすっきりしているのを感じた。「掃除って、なんか気持ちいいな」と思った。
子供の頃、ボーイスカウトでゴミ拾いのボランティアをしていたことも思い出した。結構楽しくて、夢中になってゴミを拾った。
「またやってみようかな」と、それから毎朝、家の周りのゴミを拾いに出るようになった。
小さい頃、ゴミ収集車を見るのが好きだったことも思い出した。
ポイポイと投げ込まれるゴミの袋がおもしろいように車の中に吸い込まれていく。それをいつも、ワクワクしながら眺めた。
焚火でゴミを燃やすのも好きだった。
「あれ? 俺は掃除が好きなのかもしれないな」と思った。
「掃除って、すごいかもしれない」
ある日のことだった。新たな一歩を探して外に出ることにした僕は、渋谷駅前でゴミ拾いをしている人たちを見つけた。
次の瞬間には、その人たちに「今から参加できますか?」と声をかけている自分がいた。「何かできることをやろう」「新しいことを始めよう」という気持ちが自分の中にたしかに湧いてきているのを感じた。
ボランティアでゴミ拾いをしているという彼らの仲間に入れてもらい、無心で目の前のゴミを拾っていった。
最後に全員集まって、一人ひとり自己紹介をすることになった。
「今日、初めて参加しました、入江です」と言って、マスクとキャップを取ったら、全員が目を丸くして、「入江さん!」「なんでいるんですか!」と驚きの声を上げた。
その翌月のゴミ拾いにも参加した。「やっぱり、掃除が好きだなあ」と思った。
掃除はその場をきれいにするだけでなく、掃除をする人間の気持ちもすっきりきれいにしてくれる。きれいに掃除された空間を不快に思う人もいない。掃除を通じて皆、清々しく、いい気持ちになる。
掃除って、すごいかもしれない。