汚かったところがきれいになる、自分がやったことの成果がその場ではっきりとわかる。やり甲斐や達成感も大きいはずだ。
これからの第2の人生、新しいことにチャレンジするのなら、そういう仕事がいいんじゃないかと思った。
面接
僕は早速、ネットで清掃のアルバイトを募集している会社を探し始めた。吉本の先輩の中には清掃の会社を経営している人もいた。働いているのもほとんど芸人で、環境的に僕にはうってつけだった。
でも、今の状況で安易にこれまでの人脈に頼れば、また迷惑をおかけしてしまうかもしれない。人脈で失敗した以上、人脈に頼るのではなく、今の自分の力で一から始めてみようと思った。
家から近いところにしようと、「目黒区 清掃」で検索してみた。仕事場が家から遠いと、行くのが億劫になってしまうかもしれない。僕は自分を信用できていなかった。
検索して、最初にヒットした会社に早速、電話をした。応対してくれたムライさんという方がその店舗の代表ということだったが、若そうな声だった。
アルバイト希望ということを伝えると、すぐ面接をしてくれることになった。
「現場終わりなので、会社じゃなくていいですか? 履歴書もいらないので、とりあえずお会いしませんか」ということで、翌日、指定された時間より少し前に、待ち合わせ場所の喫茶店に向かった。
しばらく待っていると、胸に『おそうじ本舗』というロゴが入った青いポロシャツを着た男性が入ってきた。
「ムライさんですか? 入江です」と声をかけると、「え! イリエって、あの入江さんですか!」と、驚かれた。
聞けば、ずいぶん前からアルバイト募集の広告を出していたのだが、まったく応募がなかったそうだ。初めてのアルバイト希望者が僕だったらしい。
ムライさんは芸人が大好きで、お笑い番組もよく見ているということだった。それなのに、騒動のことなどにはまったく触れず、清掃の仕事の説明を丁寧にしてくれた。
オフィスや倉庫、店舗などの他に、個人宅にも行くこと。エアコンやガスレンジ、換気扇、浴室など、特殊な洗剤や機械を使うため、現場でそれを覚えていくこと、などなど。
「何か質問はありますか?」と聞いてくれたムライさんに僕は言った。