見通しの利く展示空間のそこかしこに、愛らしい犬や猫の姿が見える。愛らしい表情としぐさを慈しみながら会場をめぐっていると、自分がまるで動物たちの群れの一員になったかのよう。
そんな豊かで穏やかな気分に浸れるのが、ギンザタナカ 銀座本店5階ホールでの展覧会「はしもとみお 木彫展 -時をかけるケモノたち-」。
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彫り過ぎないのが生命感につながる
はしもとみおは、楠を素材に動物たちの彫像をつくる彫刻家。今展を一見してわかるように、彼女が生み出す像はきわめて親しみやすいと同時に、とことん生々しい。いつ動き出しても、何らおかしくはないと思える。
観ていて不思議なのは、近づけばすぐに彫り跡がはっきり見えてくるようなザックリした仕上げなのに、像の印象としてはかくもリアルであること。
どうしてそんなことが可能なのか。会場で作家本人に話を聞けた。
「私はいつも実在の動物たちをモデルにして、ほぼ等身大でカタチをそのまま写そうとしています。この子たちと会って、生々しく感じてもらえるとしたら何よりです。彫り跡が残るくらいの仕上げにしてあるのは、最も生命感あふれる瞬間で彫刻を終えるのをいちばんの目標にしているから。丁寧に彫るほど生き生きしてくるわけじゃなくて、やり過ぎるとむしろ像に生命力が感じられなくなったりするんです」
なるほど、緻密・克明に彫ればリアルに近づく、といった単純なことではなさそうなのだ。
実際のところ、制作中の手の止めどきは難しく、毎回悩みどころであるという。
「カタチができていくにつれて手が止まりがちになって、彫るスピードは遅くなっていきます。最終段階では、一日中ほとんど全体を眺めてばかりになってくる。注意深く印象を確認して、ようやくひと筋、彫りを入れるといった感じで。間違ったところを彫ってしまえばその子がひどく痛がって、生命すら失われてしまうというくらいの緊張感で制作していますね」
そこまで観察し尽くし、考え抜いてあればこそ、はしもと作品の一つひとつはこれほど生き生きとしているのだ。