ウクライナ側からの難民のために暖かい飲み物や食事を提供
23時30分。バスは曲がりくねった道を進みこうこうとまではいかんが、水銀灯下10ぐらいのプラットホームが並ぶ広場に進入した。両脇にはこれまた薄明りの下もうもうと湯気をあげた鍋がならぶテーブルと人影が見えた。もろポーランド側の国境で、ウクライナ側からの難民のために暖かい飲み物や食事を提供しているボランティアである。
それにしても暗い。そしてバスはまた真っ暗の中、止まった。プラットホーム脇らしきところで、小さな事務所らしきとこから、これまた灯りが漏れていた。かわって車内にはこうこうと灯りが点けられた。運転手が素早く乗客全員の旅券を集め、その事務所らしきところに駆け込んでいった。30分足らずで運転手はバスに戻り、旅券は全員の手元に返った。旅券のページにはポーランド出国のスタンプとこのチェックポイントの地名と思われる「DUDOMIERZ」とあった。
バスは何度かこの辺りを行き来したかと思うと再び停車、さらに運転手が再び旅券を集めだした。「なんで2回も?」いやーな予感がしたが、またまた30分もせんうちに旅券は手元に戻った。バスはすぐに発車、再び暗黒の中をゆっくり走り出した。ここから数キロ、ポーランドとウクライナの緩衝地帯を進み、今度はいよいよウクライナ側での入国手続きである。
ウクライナ時間、午前4時。バスはどこかの広場脇に止まった
しかしバスは一向に止まる気配はなかった。もはや20キロ以上走っている。行きかう車も増えだした。真っ暗の中だがネオンがこうこうとついているのが所々見え始めた。ガスステーションに「PECTOPAH」の文字が見えた。
レストランや! キリル文字やんけ! バスはとっくにウクライナ領にはいっていたのである。あれほどテレビニュースで報道された難民どころか一人として見ていない。
ウクライナ時間、午前4時。バスはどこかの広場脇に止まった。かすかな灯りと建物の形状からバスターミナルと見た。運転手が次々とカーゴスペースから荷物を引っ張りだしている。乗り込んできた中年女性一人残し乗客全員が降りた。
「リビウか?」「ダー(そうだ)」
荷を運ぶ手を休めることなく運転手が答えた。まだ4時やぞ。カーヒュー(外出禁止令)が明けるまでに2時間はある。
バスは行く行く、宮嶋残る。