メーテルにいた“3人のモデル”
ちなみに『999』の主人公・星野鉄郎(声・野沢雅子)が先生ご自身なら、ヒロイン・メーテル(声・池田昌子)のモデルは誰か。
じつはメーテルのモデルは3人いて、ひとりはドイツの映画女優、マリアンヌ・ホルトさん、もうひとりは幕末に来日した独医師シーボルトの孫娘・楠本高子さん、そして3人目はドラマ『岸辺のアルバム』(’77年)などで知られる日本の大女優・八千草薫さんだった。どなたかおひとりが特定のモデルということでなく、このお三方の混合イメージだったのだろう。なお、メーテルの名前の由来に関しては「“お母さん”という意味でギリシャ語のメーテールから取ったんです」とのことだ。
「ゴジラ、ウロコにしていい?」と映画の宣伝担当に…
取材者として、生前、松本先生と接する機会は数多くあったが、印象的なのが「ふらっと話し始める内容」に何度も驚かされたことだ。
たとえば、あるときのこと。先生のゴジラ好きは有名なお話だが、その『ゴジラ』新作のオリジナル・ストーリーをとうとうと語られたこともある。ひとしきり語られると先生は、「そう言えば僕、ゴジラを描いたこともあるんですよ。知ってる?」と、1980年にリバイバル公開(最初の公開は1964年)した『モスラ対ゴジラ』のポスターを引っ張り出された。映画『ドラえもん』第1作『のび太の恐竜』の同時上映作品として公開されたときのもので、先生がポスタービジュアルを描かれた。
我々がそのポスターに目を向けていると
「僕の中ではゴジラはウロコなんですよ。だから“ウロコにしてもいい?”って聞いたら、宣伝担当の方が“いいですよ”と言ってくれたんでウロコにしたんです」
自分の中にあった「なぜあのゴジラにはウロコが描かれているのだろうか?」という疑問が氷解する瞬間だったが、「松本先生に言われたんじゃ宣伝担当の人もNOとは言えないような……」と心の中で苦笑いした。
ただし、2種類あるポスターのうち、もう1枚のゴジラの皮膚は比較的オリジナルに近い。先生なりに譲歩(?)されたのだろう。取材やプライベート的な会話も含めて、先生のお話はどれも楽しく面白かった。
先生が敬愛した手塚治虫先生や、同い年で誕生日も同じ石ノ森章太郎先生らと再会を喜びながら、『999』の新作構想を練っている姿を一ファンとして夢想しつつ、先生のご冥福をお祈りします。