その進行は空間の輪郭をしっかりと描き、その言葉はルールに則りながらも決して凡庸ではない。アナウンサーに求められるすべてのことを鮮やかにやってのける。彼がアナウンサー人生を閉じた時、アナウンサーという職業はなくなるのではないかとさえ思っている。私の2年後輩だが、彼からもっと学びたかった。
最終日はなるべく目立たぬように会社を出ようと思っていたが、彼と一枚写真を撮ることはいつかの追憶になるのではないかと思って応じた。
「どこにいるの?」指定された場所に行くと…
最後の仕事を終え、もらったプレゼントの袋を両手に抱えて、安住君との待ち合わせ場所の正面玄関におりた。
彼の姿は見当たらなかった。「どこにいるの?」とラインをすると、正面玄関を出たところの広場に来てくださいと言う。そこは会社の前にある、芝生が敷かれた大きなイベントスペースだ。明るい正面玄関を出るともう日は暮れていて、広場の奥は暗闇で何も見えない。重い荷物を抱えて一歩一歩進んだ。
遠く暗闇の先から「堀井さーん!」と歓声が聞こえてくる。だんだんだんだん岩みたいなかたまりがぼんやり浮かんできて、20人くらいの集団がこちらに向かって手を振ったりジャンプしたりしているのが見えた。
安住君が引率の先生みたいに立っていて、その後ろにたくさんの後輩たちが集まってくれていた。
短い時間で可愛い後輩たちとの別れを惜しむ
その光景に気づいた時、うっかり泣いてしまいそうになって、慌てて自分でスマホのカメラを回した。カメラ越しじゃないと、一人一人の顔が見られなかった。
時間はもう夜の6時を過ぎているのに、早朝番組担当の子も、今日がお休みの子もいる。私のために無理に出勤してきたのではないか。残業時間はつくのだろうか。数秒前会社の玄関を出た瞬間に、もう会社員でも管理職でもなくなっているのに、今更そんな心配をしてしまう。
皆が言葉をかけてくれて、写真を撮ったり、手でトンネルを作って送ってくれたり、別れを惜しむ短い時間にも、早くこの子たちを帰らせて休ませないと、そんなことばかり考えていた。
みんな可愛い後輩たちだ。それぞれの事情もわかっている。思うような仕事につけずに悩んだり、同僚の活躍を見て焦ったりすることもある。