昨年、50歳でTBSを退社したフリーアナウンサーの堀井美香さん。そんな彼女が、退社前からの約9か月の記録を日記形式で綴ったエッセイ集『一旦、退社。50歳からの独立日記』(大和書房)を上梓した。ここでは、同書より一部を抜粋して、3月31日の退社日のエピソードを紹介する。(全2回の1回目/2回目に続く)

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3月31日 退社の日、会社から外に出た。

 テレビやラジオには改編(4月、10月で番組の編成が変わる)というものがある。長寿番組の最終回などは、花束贈呈があったり、出演者が挨拶をして涙したりもする。

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 私もこのエモーショナルな時間を幾度となく体験してきたが、薄情なのか一度も泣いたことがない。

 始まりがあれば終わりがある。ずっと月の満ち欠けと一緒だと思ってきた。

 3月31日退社の日、TBSアナウンサーとして仕事をするのは最後の日だったが、朝からラジオの生放送とNスタのナレーションをいつもと同じようにこなした。

 合間合間にいろんな人たちが花束やプレゼントを持って声をかけにきてくれて感慨深くもなったが、普通の一日であろうと努めた。

 前日には安住紳一郎アナウンサーから「明日最後の日ですよね、帰りに写真でも撮りませんか」とラインがあった。

TBSの安住紳一郎アナウンサー ©文藝春秋

会社生活での楽しみが2割増しになったワケ

 彼とはアナウンスセンターの席が隣だった。土日の誰もいないアナウンスセンターで一緒になることも多く、いろいろな話をしてきた。

 私の子供の話とか、いわゆる恋愛話とか。

 私が落ち込んでいる時は、悪い気が憑いているとか言ってお清めの塩を振りまいてくれたりもした。

 仲良くしてくれたのは、彼と同じく私が地方出身とか、浪人してるとか、這い上がってきた者特有の、暗い影を嗅ぎつけたからだと思う。

 でも彼がいてくれてよかった。私の会社生活での楽しみが2割増しくらいになったから。

 いわゆる天才で努力家。よく取材で彼のことを聞かれると、安住紳一郎を超えるアナウンサーは今後出てこないと断言したりする。