トラブルの発端は、豊橋さんが利用しているネットスーパーの配達員が、A氏の駐車場付近に車両を停めたことだった。ちなみに、ドライバーが停めたのは駐車場の敷地内ではなく、公道。本来、短時間の停車ならば問題ないはずだが、オーナー親子が外に出てきてドライバーに詰め寄ったという。
「その日私は不在だったのですが、あとで配達の人に聞いた話では『ここに車があると、子どもが来たときに危ないじゃないか!』と、怒鳴りつけてきたそうです。
でも、配達した時間は朝の10時だったので、子どもたちは学校に行っている時間。そもそも普段から人通りも少ない地域なのに『ここに停められると困る』の一点張りで、罰金として7万円を請求されそうになったとか。彼はなんとかその場をおさめて配達を続けたそうで、本当に申し訳なかったです」
「あの件どうなりましたか?」
その一件以来、ネットスーパーのドライバーは件の駐車場にはみ出さず、豊橋さん宅の前にトラックを停めるようになったそう。
「それから数年は何もなかったのですが、ある時、私が玄関先でネットスーパーの配達の対応をしている際にAさんがこちらに近づいてきて、『あの件どうなりましたか?』と話しかけてきたんです。どうなるもなにも、ドライバーさんはうちの前に車を停める、という対応をしているので問題はないはずなのに、何年も前の出来事を掘り返してきました」
困ったドライバーは、豊橋さんに目配せをして助けを求めてきたという。A氏の言い分は「あれから数年経ったが、その後の対応など、何も連絡がないのはおかしい」とのことだった。
「頭ごなしに否定すると逆上しそうだったので、まずはAさんの話に耳を傾けました。一通り相手の言い分を聞いたうえで『私がネットスーパーに依頼したばっかりに、あなたを傷つけてしまい本当にごめんなさい。ドライバーさんではなく、悪いのは注文をした私なんです』と、平謝りしてみたんです。
ただ、そのときにAさんが『知り合いの弁護士にも相談している』と“弁護士”というワードを使ってきたので、大手スーパーを相手取って裁判を行うのは無謀だからやめたほうがいい、と諭しました」
豊橋さんに諭されると、先方は「お姉さんが悪いわけではない……」と急に弱気になってしまったそう。
「Aさんは、駐車場近くに停めた車にクレームを入れるのが生きがいなんだと思います。ですが、私が謝罪して話を聞くまでは、誰に難癖をつけても真剣に取り合ってもらえない、という不満もあったんでしょうね。最後に『私がスーパー側に連絡をしましょうか?』と提案すると『そこまでしなくて大丈夫です』と言って、トボトボと家に帰っていきました」
その日は豊橋さんの真摯な機転によって事なきを得たが、A氏は今もなお、月極駐車場の監視をつづけているという。
彼女のケースは稀かもしれないが、周辺住民が快適に過ごせるようなルールづくりが月極駐車場にも必要なのかもしれない。