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 きっと本当は、一刻も早く助けが必要だったのだが、そんな状況にあることは誰にも知られたくなかった。知っているのはマネージャーさんと近しい先輩だけ。ただでさえ、離婚で仕事が減るような気がしているのに、その上パニック症だなんて知られた日には、わたしは、誰にも、笑ってもらえないのではないか。離婚してヤバいやつなのに、パニック症なんて、さらにヤバいやつだと、思われるのではないか。発想も陰に陰に入っていくのだ。アリ地獄に親子2人だけで落ちていくようだ。

 離婚に対して、心の病に対して、差別意識がある人が多いに決まっている。わたしがかつて、そうであったように。 

青木さやかさん(撮影=後藤利江)

サービスを利用する元気すらない

 そもそも、なぜパニック症に?

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 はっきりとはわからないが、ストレスと疲労から許容範囲タンクがいっぱいになり、水が溢れてしまったような気がする。

 なにが疲れたって、人と不仲になり別れるという行為はきわめてエネルギーを奪っていく。さあ別れましたきつかった日々は忘却の彼方、というわけにはいかず、傷つけたという自戒の傷と、傷つけられた傷は、絆創膏くらいじゃおさえられない。

 今考えると、シングルマザーで幼い子と2人で暮らし親戚も近くにおらずという生活は、通常だと死亡レベルに心身が疲れると思う。どう要領よく頑張っても。国や区のサービスを調べれば、いろんな手助けをしてくださるものが見つかるが、そこに連絡しようという元気がまずない。本当に、ないのだ。サービスを利用させてもらったのは、少しばかり元気になってから。あまりにも元気のない当時、欲しかったのは、美味しいごはんと、子どもの世話をしてくれる安心できる誰かと、お金であった。わたしは仕事が忙しかった時の貯金を切り崩しながら毎日を過ごした。ギャンブルや様々なことでだいぶ減ってはいたが、お金は大事だ。

 1階のベッドをぎゅうぎゅうに置いた狭い部屋で、娘に、やはりこう言う。 

「早く寝なさい」

 寝てくれるから、なかなかおっぱいはやめることができなかった。おっぱいをあげていると安心して眠るのだ。