中国の偵察気球は、アメリカのF22戦闘機によって木っ端みじんになり、報道を見る限り、中国のメンツはつぶされ、バイデン大統領は毅然とした対応を取ったかのように見える。だが、昨年、アメリカでベストセラーとなった『レッド・ハンデッド――アメリカのエリートたちはどうやって中国を助け、金持ちになっているか』(ハーパーコリンズ社)の著者ピーター・シュバイツァー氏は、「文藝春秋」4月号への寄稿でこう分析している。

ピーター・シュバイツァー氏 ©Nicole Myhre 

アメリカ人の中国に対する懸念は増加

〈本当のところ、バイデン大統領は右往左往していたというのが実態です。最初は、気球を「無視」しようとし、その次は「問題ナシ」と判断し、そして最後になって「撃墜」を決断したのです。これでは中国に甘く見られても仕方がない。最初、中国が自国のものであると認めたのもバイデンの甘い対応を期待してのこと。懸念すべきは、今後も中国から出方を試されることが起るのか、あるいはもっと大胆な行動に出てこられる可能性もあるのか、ということです。この問いに対する答えは残念ながら、イエスだと言わざるを得ません。

 アメリカ人の中国に対する懸念は深刻さを増しています。私の著書『レッド・ハンデッド』が昨年、5週連続でニューヨーク・タイムズのベストセラーリストに載り続けたのはなぜかといえば、まず何より普通のアメリカ人が中国との競争の激しさを日に日に実感していることがあります。そして二つ目には、アメリカのリーダーシップがそれに対してきちんと対応していないのではないか、と国民から疑念を抱かれているということもあります〉

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シュバイツァー氏の著書『レッド・ハンデッド』

大富豪が中国に抱き込まれていく姿を赤裸々に描いている

『レッド・ハンデッド』が俎上に上げるのはアメリカの大物たちばかりだ。政界では、バイデン大統領、共和党の上院院内総務ミッチ・マコーネル議員、ビジネス界ではビル・ゲイツやイーロン・マスクといった大富豪が中国から巨額の資金提供を受けたり、特別待遇を受けることで、抱き込まれていく姿を赤裸々に描いている。

〈私は中国が米国のエリートに目をつけ、多額の金銭を提供し、自分たちの味方に取り込むことを「エリート・キャプチャー(エリート捕獲)」と呼んでいます。ハンター(バイデン大統領の次男)はこのエリート捕獲にまんまと捕まってしまったのです。