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 テレビ朝日は、これまでNHKで放送していなかった病室の隠し撮りの映像を流した。

 病室で看護スタッフが「地震だ」と患者が寝ているベッドを激しく揺らし続ける場面、暴言を吐きながら患者の耳をつまんで頭を何度も押さえつける場面も放送した。

新たな病室の隠し撮影映像(2月17日、テレ朝「報道ステーション」より)

 一種の虐待やいじめといえる患者への不適切な対応の音声も放送した。

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(患者)

 痰とってくれ

(看護スタッフ)

「くれ」言っているやつはダメだっつってんだろ

(患者)

 痰とってください

(看護スタッフ)

 嫌です(笑)。お前のいうことは聞かねえよ(笑)

(6)東京都が抜き打ちで2度目の立ち入り検査(第六報、2月24日)

 病院を監督する東京都は医療法と精神保健福祉法に基づき、2月24日にも臨時の立ち入り検査を実施した。

 テレビ朝日「報道ステーション」は、「精神科病院に“抜き打ち”検査」という見出しの字幕で、立ち入り検査が早朝に行われた“抜き打ち”だとスタジオで伝えた。その後に、滝山病院を運営する医療法人社団の朝倉孝二理事長を直撃する映像を放送した。

初めて「理事長」の顔をさらした報道(2月24日、テレ朝「報道ステーション」より)

(記者)「日常的に暴行があった」という指摘を理事長として把握していたか?

(理事長)全く把握してないです

(記者)被害者や被害者の家族に対してコメントはあるか?

(理事長)弁護士と相談してから話をさせてください

 質問から逃れるように小走りに歩きながらのインタビューだった。

 一連の問題が報じられるなか、公式な場に姿を見せない滝山病院側。その責任者の名前と顔が初めてメディアに登場した映像だった。「後追い」のテレビ朝日が、NHKも持っていない素材を放送して意地を見せた報道だった。

 いくらすごい「スクープ報道」でも、他の報道機関が追いかけて報道してくれないことには社会全体に広がっていかない。自分の社の独走状態がずっと続いてしまうと、社会的な広がりをもたない狭い範囲の報道になりかねない。どこかで他の社にも報道合戦に参入してもらう必要がある。

 今回のNHKの「スクープ報道」では、記者会見のタイミングなどを弁護士とNHKがよく相談したのだろうと推測できる。行政のトップである厚労相にも反応をぶつけて政治的にも問題に関心が広がったタイミングでの記者会見の設定は見事というほかない。

「スクープ報道」と「後追い報道」は、“抜いた抜かれた”という勝ち負けの勝負というばかりではない。ときに抜かれた側=「後追い報道」の側が努力することで、スクープした側も取材していない報道素材を加えることがある。結果的に報道全体の内容が補完されて質が上がっていくのである。そんな双方向の作用の片鱗が少し見えたようなテレビ朝日の報道だった。