「しゃべるなって言ってんだろ。黙ってろ。メシ来るまで」
東京都八王子市の精神科病院「滝山病院」。
入院する患者に対して看護師らが日常的に暴行や虐待を繰り返していた疑いが濃厚になっている。手足をベッドに縛りつけて身体拘束する。寝たきりの患者に対して看護師らが乱暴な言葉を吐く。殴る。耳をつまむ。患者が求めるケアをわざとしない。満足に体位交換などをせず、床ずれ(褥瘡)を深刻化させて患者に苦痛を与える。
NHKが1年がかりで取材した圧倒的スクープ
患者が退院したいと訴えても退院させてもらえない。退院する時は死亡した時、という死亡退院の割合が極端に多い。そんな実態が次第に報道されるようになってきた。「このままでは殺されてしまう」。患者たちはそう訴えていた。
思わず目をそむけたくなる……。耳をふさぎたくなる……。おぞましい実態が明らかになりつつある。
「滝山病院」に関連して、メディア関係者で実態を察知したのはNHKのドキュメンタリー取材班だった。1年がかりで先行取材し、関係者へのインタビューなどを重ねて、他の社が追随できない圧倒的なスクープを放った。
NHKのドキュメンタリー班が取材していた「滝山病院」の問題は、どのように他社のニュースでも流れるようになったのか。「スクープ報道」と「後追い報道」を時系列でふり返りながら、テレビにおけるニュース取材とドキュメンタリー取材の構造を検証してみたい。
(1)NHKの「ニュース7」が“独自”報道(第一報、2月15日)
滝山病院についてNHKが最初に放送したのは2月15日(水)の「ニュース7」だった。“独自”という赤い色の字幕をつけて「精神科病院で暴行疑い」と報道した。
“独自”とは、「このニュースは他の報道機関にはないわが社だけの“スクープ取材”だ」との意味である。一般の視聴者にはあまり浸透していない自己満足な表現ではあるが、NHKは報道機関としてのプライドをにじませて放送した。