文春オンライン

「ここね、人が人を殺すとこなんです…」相次ぐ患者の“死亡退院”をスクープしたのはNHKだった

NHKドキュメンタリー班の調査報道が「精神医療の闇」を暴いた #2

2023/03/08
note

「ここね、人が人を殺すとこなんです。僕を助けてください。お願いします。僕は死にたくないんです」

 東京都八王子市の精神科病院「滝山病院」にて、患者からのSOSで支援を行っている弁護士による告発で、看護師による患者に対する暴行が常態化していた疑いが浮上した。50代の男性看護師1人が逮捕され、他に3人の看護スタッフが捜査対象になっている。

 一連の報道は、2月15日にNHKが「ニュース7」で「スクープ報道」して先行した。NHK報道は、ドキュメンタリー班の2人のディレクターが1年がかりでこの病院について取材した内容をベースにしたニュースだった。

ADVERTISEMENT

 この「スクープ報道」の集大成といえるドキュメンタリーの内容とその後の反響を確認していきたい。

(1)ETV特集「ルポ 死亡退院 ~精神医療・闇の実態~」放送(2月25日)

 1年がかりで滝山病院を取材したNHKドキュメンタリー班の番組がEテレで放送された。1時間のETV特集「ルポ 死亡退院 ~精神医療・闇の実態~」というドキュメンタリーだ。

弁護士との面会を問いただす看護師(2月25日、NHK ETV特集「ルポ 死亡退院 ~精神医療・闇の実態〜」より)

 NHKが第一報などのニュース番組で放送した、病室での看護スタッフによる患者への暴言・暴力・虐待の映像も登場する。それだけでなく、ドキュメンタリー班が1年がかりで取材を重ねた、これまでは明らかにされてなかった様々な「スクープ報道」があった。

 看護スタッフによる患者への暴力・虐待などの問題にとどまらず、一連の患者の人権軽視の背景や究極的な責任のありかに鋭く迫る報道だった。なかでも番組では行政の無責任を鋭く告発している。すでにニュースで放送されたものと重複しない部分でドキュメンタリーの「スクープ」といえる内容を簡単にまとめる。

幸田清さん(仮名)(2月25日、NHK ETV特集「ルポ 死亡退院 ~精神医療・闇の実態〜」より)

病院内で謎の死を遂げた46歳男性

 病院からの退院を切望する男性患者(幸田清さん=仮名、後に死亡退院)は、面会した弁護士に「病室に戻ったら殺されてしまう」と泣きながら恐怖を語っていた。事実、「患者たちの何人かは看護スタッフらによって死に至らしめられたのでは?」という疑いを示唆するケースも番組ではいくつか登場する。

「ここね、人が人を殺すとこなんです。僕を助けてください。お願いします。僕は死にたくないんです」

 悲痛な声で弁護士に救助を訴えていた幸田さん。

 幸田さんの病棟内での様子も映像で残されている。不安なのかぼそぼそ話し続ける彼に男性の看護師が「うるせえよ。寝てろっつってんだろ。黙ってろ。しゃべるなっつってんだろ」と強く殴りつける場面もある。