文春オンライン

「ここね、人が人を殺すとこなんです…」相次ぐ患者の“死亡退院”をスクープしたのはNHKだった

NHKドキュメンタリー班の調査報道が「精神医療の闇」を暴いた #2

2023/03/08
note

(4)日本精神科病院協会が会員病院に研修へ(第九報、3月3日)

 日本精神科病院協会が、会員病院への研修などを行うと発表した。

 NHKが「ニュース7」で放送。会見では協会の山﨑學会長が「当会会員病院でこのような事件が発生したことは慚愧に堪えない。深く陳謝申し上げます」とコメントした。協会では2日前に病院に聴き取り調査を行い、院長が“人権侵害ないように運営したつもりで寝耳に水だった”として、暴行の事実を把握してなかったと答えたと説明した。

 一方で、埼玉県所沢市の男性(50代)が“家族の同意なく強制的に入院させられた疑い”で所沢市や病院担当者を監禁の疑いで刑事告訴したことを伝えた。医療保護入院では「家族の同意」が法律で義務づけられているが、所沢市の職員が「音信不通」などと虚偽の書類を作成した疑いがあるという。男性の姉は、ETV特集でも「まったく“音信不通”ではない」と証言したが、この日のニュースでは彼女が市職員を虚偽公文書作成などの疑いで告発したと伝えた。

ADVERTISEMENT

新たな告訴について伝えるニュース(3月3日、NHK「ニュース7」より)

 テレビ朝日「報道ステーション」も、日本精神科病院協会の記者会見でのコメントを使いながら、滝山病院では看護師や准看護師が175人いるなかで9割以上が非常勤だったことや朝倉重延院長の過去の動画を紹介して、朝倉病院事件で保険医登録を取り消されたことなども伝えた。協会の幹部は、院長の言い分を聞いて「今回行ってみて一生懸命やっていたと分かったので申し訳なかったと逆に思いました」(日本精神科病院協会・平川淳一副会長)などと同情的な姿勢を見せていた。

 TBS「news23」も、協会側が公表した滝山病院院長の「寝耳に水」発言を伝えつつも、病院への強い不信感をもつ患者家族の声を放送した。入院していた患者が危篤状態と連絡を受けてかけつけると、あまりに苦しそうだったので「延命処置の中止」を頼んでも、その後も治療が続けられたほか、その患者には骨が露出するほどの褥瘡(床ずれ)があったという。父親を亡くした男性は「いま思うと無理に投薬したり、助かる見込みもないのに治療を無理にしていたのかな」との疑いをもつ。「今はただ父が亡くなった本当の理由を知りたい」と無念の思いは消えることはない。

 この男性患者のケースもETV特集に出てきていた。「スクープ報道」したNHKを民放がしっかり追いかけている。「news23」ではスタジオで視聴者に対して情報提供を呼びかけ、今後もこの問題を追及する構えを見せている。

情報提供を求める呼びかけも(3月3日、TBS「news23」より)

「スクープ報道」と「後追い報道」の双方がうまく機能した

 ETV特集班が先行して取材した「スクープ報道」のドキュメンタリー。NHKはそれをニュースで小出しにすることで、他社の追随を許さず、指導監督機関である東京都や国に反応をぶつけながら、問題の改善へと報道の流れをつくっていった。民放でもテレビ朝日、TBSなど一部のテレビ局は、堅実に「後追い報道」をしながら、比較的短い放送時間で視聴者が理解するのが難しい精神医療の問題を伝えようとしている。

「スクープ報道」と「後追い報道」の双方がうまく機能して、滝山病院という精神医療の闇の実態が国民の目にさらされて、少しでも改善の方向に向かっていくことを願う。

 このドキュメンタリーで伝わる、亡くなった患者の救いを求める切実な訴えと患者救出に命がけで取り組む弁護士。対照的に患者を暴力で威圧する看護スタッフの下衆な言葉づかいや“院長”の話し声。人間という存在の尊厳とは何か。人生の幸福とは何か。最後まで考えさせられる。それは映像メディアだからこそ伝えられるリアリティーだろう。

 番組内でほんの一瞬だけ写った“院長”の表情は、彼がこれまで巣くってきた精神医療の暗闇を象徴しているように見えた。

「ここね、人が人を殺すとこなんです…」相次ぐ患者の“死亡退院”をスクープしたのはNHKだった

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー