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 ドキュメンタリー取材・制作の中心は、精神科病院の調査報道で一躍話題を集めたNHKの青山浩平ディレクターと持丸彰子ディレクター。2021年7月、ETV特集「ドキュメント 精神科病院×新型コロナ」で、コロナ禍で転院を余儀なくされた精神科病院の患者などの取材を通して、日本の精神医療の前近代的な姿を浮き彫りにし、文化庁芸術祭テレビ・ドキュメンタリー部門優秀賞やギャラクシー賞選奨など数々の賞を受けたコンビだ。

 精神医療に関しては一線級の専門家たちからも厚い信頼を得て取材する最前線のメディア人といっていい。

 滝山病院の事件をめぐっては、警察の捜査や東京都による調査の進展にともなってテレビや新聞などでも報道されているが、“院長”の責任や行政の責任など背景にある構図にこれほど深く切りこんだ報道は見られない。さまざまな事実の断片を拾い集めて、責任のありかに迫っていく2人の調査報道は知的でスリリングだ。一方、けっして答えを押しつけることなく見る側に委ねていて、上質な映画を見ているようでもある。

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 事実、番組のラストではほんの少しだけ希望が見えてきて、ちょっと救われる気持ちにもなる。診療報酬を数多く得るために患者たちの命が犠牲になる事件がたびたび起きても、一向に変わろうとしないこの国の無責任なありように対する静かな怒りがじわりと伝わってくる。

 番組最後に取材に協力した人たちの名前がクレジットで示されるが、多くの専門的な知見をもった人たちに助言を求めたことがわかる。

(2)日本精神科病院協会 現地調査へ(第七報、2月28日)

「協会の東京支部が“虐待防止委員会”設置へ」(NHKが昼すぎに関東ローカルのニュースで放送)

 全国1,185の精神科病院が会員になっている日本精神科病院協会が、“精神医療全般に対する信頼を著しく損なう”として滝山病院に現地調査を行うことを決めた。協会の東京支部である東京精神科病院協会が前日にホームページに新たな文章を掲載した。

 “事態の発生は痛恨の極みだ”とし、“背景には精神科病院の閉鎖的側面など反省すべき点がある”と自省する。協会内に“虐待防止委員会”を近日中に設置することや全会員病院を対象にした研修を実施すると発表している。

 これは明らかにETV特集を視聴した上での反応である。放送で指摘された精神医療界の無責任さを深く反省したものだと言っていい。この点でも「スクープ報道」が投げかけた「問い」は多くの関係者の胸に響き、波紋は今も広がっているといっていいだろう。