1ページ目から読む
2/2ページ目

 有働 私の場合、そのあたりの感情の機微は自分でもよく分かっていなかったんですよ。でも、この舞台の会話でどんどん出てくるのでなんかスッキリしました。シーンによっては30秒に1回くらい笑わせてもらって。

 大地 ありがとうございます。

 有働 大地さんは日本を代表するコメディエンヌと言われていますが、笑わせてやろうとか、意識されるものなんですか。

ADVERTISEMENT

 大地 笑わせよう、とは思わないようにしていますが、やっぱり私自身が舞台を見に行った時に、泣きたいし笑いたいんですよね。だから宝塚時代から、クスッと笑える部分を作ることは心がけてきました。あざとく作りたくはないけど、二枚目の男役にもダメなところや三枚目的な要素は絶対あるはずだし、そこをクローズアップしたくなるんです。「人間くささ」というかね。

 有働 漫才やコントなら見る側も笑う態勢がありますけど、舞台は共感がないと笑いが生まれない気がします。

 大地 そうですね。なので、その人物が大真面目にやっていることが自然に笑いにつながるよう、そこを常に目指しています。

 有働 その日の客席の様子をみながら計算して動きや表情を作ることはありますか。

 大地 計算しないです。客席からドカンドカンと笑いが来る日もそうでない日もありますが、お客様の体調や年齢層は毎回違いますから。マスクをしていても、大きな笑い声が起こらなくても、十分楽しんでくださっている時は感じ合えるもの。だから一番大事なのは、演じる人物がそこで息づいているかどうか、なんです。

 有働 役が生きているかどうか。

 大地 そうですね。お客様のウケ方に左右されるより、自分を俯瞰して、終演後「明日はあの場面をもう少しこうしてみよう」という感じで反省点を探します。

Ⓒ文藝春秋

20年間で615公演

 有働 昼夜で2公演ある日もありますよね。

 大地 私は1日2回の公演と思わずに、1回公演が2つあると考えるようにしています。自分も役も鮮度を保てるよう、生まれたてだという暗示を自分にかけるんです。

 有働 自分の中で昼の続きじゃなく、夜はまたゼロから役のその人が歩き出すような?

 大地 そうです。そうでないと、『マイ・フェア・レディ』を20年間、615回も新鮮な気持ちでできなかったと思います。

 有働 1990年から2010年まで主役のイライザを演じた、大地さんの代表作ですね。

 大地 舞台ってお客様も私たち俳優もスタッフも人間で、全員で初めて作る空間を共有しているものなんです。だから同じことは絶対にないし、惰性で同じようにやりたくはない。回数を重ねると、慣れが生じるのを一番警戒します。ちょっと緊張感を上げて、でも気楽にやっているふうに見せたいんです。

「愛はあるんか?」製作秘話

 有働 コメディエンヌの真骨頂が舞台以外で発揮されているのが、2018年から出演されているCMです。「そこに愛はあるんか?」は一度聞くとつい真似してしまいます。

 大地 あのフレーズはプロデューサーが考えたんです。インパクトがありますよね。

 有働 大地さん演じる老舗料亭の女将が、車掌とか和尚とか現代文講師とかに変身していくシリーズが、毎回おかしくて。短い時間に面白さやインパクトを凝縮するのは舞台とは全然違いそうですが、アイデアをたくさん出されるそうですね。

 大地 最終的な編集はプロデューサーと監督ですけど、私はいろんな演技を試してみます。現場で出るアイデアもありますし。それで、プロデューサーが吹き出しちゃってNGになったこともあります。

 有働 面白すぎてNG⁉︎ もったいない!

 大地 和尚篇でまさかあんな言い方をするとは! とか、車掌篇でもある演技を試みてみたら、プロデューサーの笑い声が入ってNGに。それ以来「絶対笑わないでくださいよ」と念押ししてから撮影をスタートしています。

 有働 収録のたびに(笑)。

 大地 そうなんです。だから撮影は集中して大体早く終わりますね。

 有働 大地さんにオーラと品があるからこそ、役とのギャップが面白いと思うんですけど。

 大地 オーラのことは自分ではよくわかりませんけど、あの女将……あの人、「みよこ」って言うんですよ。

 有働 ちゃんと名前がある。

 大地 あるんですよ(笑)。私としては、みよこの品性は絶対に守りたいと思ってやっています。

 有働 そこを大事に演じている。

 大地 そうですね。あと、やる以上は振り切る。

 有働 どれだけコミカルでも途中で恥じらったりはしないと。

 大地 そうする方が気持ち悪くなると思うんですよ。やる以上は、役に徹することを意識しています。

 有働 それで思い出したことが。NHKに入った時、先輩から「アナウンサーに大事なのは品性だ。後からは身につかない」と言われたんです。「どうすればいいねん」と、心の中でツッコんだんですけど。大地さんはここで品性が培われた、と思う経験はありますか。

 大地 なんですかねぇ。でも、多感な時期を宝塚で過ごしたのは大きいと思います。特に予科の1年間が一番大変で。予科ルームという小さな部屋に各自のロッカーがあって、そこで食事も着替えもするんですが、大声を出してはいけないんです。もちろん、大声で笑うのも。

 有働 なんと。笑うのがダメ?

 大地 隣の本科ルームに聞こえちゃうと、叱られるんです。だから休憩時間に私が面白いことを言ったりすると、みんなで「ロッカー、ロッカー」と言ってロッカーに顔を突っ込んで笑って。よけい響いちゃったりして。

 有働 たしかにそうなる。

 大地 宝塚は上下関係が厳しかったり、色々な規則があったり、大変なことも、もちろんありました。でもいろんな授業を受けて、泣いたり笑ったりしながら様々なことを学べて本当によかったと私は感謝しています。

「有働由美子のマイフェアパーソン」第51回・大地真央「男にお金貸したんですか⁉︎」全文は、「文藝春秋」2023年4月号と「文藝春秋 電子版」に掲載されています。

文藝春秋

この記事の全文は「文藝春秋 電子版」で購読できます
「男にお金貸したんですか⁉︎」