これまでに2000人以上のヤクザに会い、取材してきたという鈴木智彦氏。ヤクザ専門誌『実話時代 BULL』編集長を務めた後、フリーライター兼カメラマンとしてヤクザ関連の記事を寄稿し続けている。
ここでは、鈴木氏が「教科書では教えてくれないヤクザの実態」について詳しくまとめた『ヤクザ2000人に会いました!』(宝島社)より一部を抜粋。意外と知られていない、現代ヤクザの“日常”の実態を明かす。(全2回の2回目/前編を読む)
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ヤクザの1日のスケジュールとは?
一般的なヤクザの生活イメージは、たとえばこんなところではないか。自堕落で、毎晩遅くまで飲み歩き、夕方近くにやっと起きる……。しかし、そんなヤクザは今や使い物にならない。
覚せい剤との関係にしてもそうである。もはやポン中ではヤクザはつとまらないという。悪い冗談のようだが、覚醒剤の卸元が「ポン中が組内にウヨウヨいるような時代もあったが、今はそんなことしてちゃもたない」と断言するのだから、ヤクザも決して楽な商売ではないのだろう。
朝7時に起き、新聞各紙に目を通す。自宅の周囲を散歩し、帰宅して朝食。シャワーを浴びて事務所へ。昼食は事務所近くで食べ、午後はシノギの現場を回る。夜はスポンサーと会食、軽く酒を飲み、10時には帰宅。読書やテレビ番組のチェックをし、風呂につかって12時には就寝……。
多忙な中堅幹部クラスの一日はほぼこんな感じか。四次団体の組長なら、三次団体と二次団体の当番が月に数回あって、1カ月の3分の1程度はからだを拘束される。義理事があれば、あと数日。自由な時間はほとんどない。
会食の多さは、まるで政治家並だ。ヤクザのモットー「働かずして食う」ためには、ブレーンが欠かせない。顔で食っているヤクザたちは、ブレーンとの人間関係が腐らないよう、常にその維持に努めねばならない。また、大きなスポンサーから声がかかれば、夜中だって出かけていく。暴力を主体にしながら普段は人気商売で、ある意味、芸能人的な活動を強いられる。
待ち続けるだけの「部屋住み」
部屋住みの若い衆は、まるでひと昔前の丁稚奉公のようだ。部屋住みというのは、親分と同じ屋根の下で寝起きし、身の回りの世話をしながら、ヤクザのイロハを学ぶ制度である。ヤクザ礼賛記事的に書けば、「ヤクザ事というものは、言葉で教えることができない無形のものであり、こうやればヤクザとして合格だという公式も方程式もない。死を意識せざるをえない修羅場ではたったひと言の掛け合いが明暗を分ける。その時々で臨機応変に対応していかねばならず、若い人間は親分の背中から極意を学んでいくしかないのである」とでもなろう。
しかし現実的には、組織人としての基礎、とりわけ礼儀作法を短期間でからだに覚えさせるのが目的で、進んで人柱となるための“洗脳”の意味も大きい。
ただし、ヤクザの世界を見て思うのは、暇な時間をつぶす能力が必要だということ。親分のための待機時間がそれで、会食中、車の中で待ち続ける若い衆は、何時間でもその場に待機する。事務所での待ちも多く、何もできず、どこにも行けず、いつ待機が解けるか分からないまま、ひたすら待ち続ける時間はこのうえなく苦痛だろう。スマホのおかげで、ずいぶん助かっているに違いない。