2020年4月、福岡県篠栗町のマンションで碇利恵被告(41)の三男・翔士郎ちゃん(当時5)が餓死した事件。3月9日、保護責任者遺棄致死や詐欺などの罪に問われた“ママ友”・赤堀恵美子被告側(50)の控訴審が福岡高裁であった。福岡高裁は懲役15年とした一審の判決を支持し、控訴を棄却した。

 一審に続き、碇被告への洗脳や、生活保護費を騙し取ったとされる一連の容疑を否認した赤堀被告。なぜ、翔士郎ちゃんは短い命を閉じなければならなかったのか。事件を報じた「週刊文春」の記事を公開する。(初出:週刊文春 2021年5月6日・13日号 年齢・肩書き等は公開時のまま)

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「こっちに来ませんか」

 2016年4月。3児を育てる碇利恵は、周囲から浮いていた巨躯の母親に声をかけ、ママ友の輪に誘った。その春、子供を同じ幼稚園に転入させてきた赤堀恵美子だ。それが地獄の始まりだった。

碇被告

 福岡県篠栗町で、碇の三男だった5歳児の碇翔士郎(しょうじろう)ちゃんが餓死したのは、昨年4月18日のこと。今年3月、碇と赤堀が保護責任者遺棄致死の容疑で逮捕され、後に起訴された。

赤堀被告

 赤堀は一貫して容疑を否認。大分に住む老父は「今も娘を信じる」と居直る。

「マインドコントロールというけど、家庭は別々だし、我が子が餓死するまで母親がなんもせんて、ちょっとおかしかなかですか?」

 だが、事件の根底にあるのは、赤堀の常軌を逸した洗脳支配。人の良い碇を懐柔していく手口の詳細も新たに分かってきた。キーワードは“アメとムチ”だ。

 打ち解けてすぐ、赤堀は碇に嘘を吹き込み始める。

「あなたをのけ者にしたママ友のグループLINEがある。悪口言われているよ」

 仲良くしてきたママ友たちが、本当は自分を嫌っている――、繰り返し刷り込まれた碇は、人間不信に陥る。すかさず赤堀は「でも私だけは味方」と囁いた。

 巧妙なのは、こうして絶望と希望を交互に与え、主従関係を確立したことだ。

「その後、赤堀は『あなたの発言で傷ついたママ友が裁判を起こした』と不安を煽っている。同時に『私も訴えられているし、一緒に頑張ろう』、『これを乗り越えたら普通の生活に戻れるから』と碇を励まし続けた。そして架空のママ友トラブルを自分が解決したように見せかけ、より信頼を獲得した」(捜査関係者)

 絶妙に“アメ”を差し出す赤堀の謀略によって、碇は夫と離婚、親族も遠ざけた。すると赤堀は“ムチ”を強めていくのだ。

「優しい言葉をかけたかと思えば、些細なことで罵倒したり、大声で怒鳴りつけたりして、恐怖も植え付けていった」(同前)