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目立つのは“大嫌い”、登板日は“怖い”…佐々木朗希が人前で話ができるようになるまで

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2023/03/10
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 人生とは不思議なものだ。恥ずかしがり屋の人前で話をするのが苦手だった少年が今、日本中の野球ファンの注目を集める存在となっている。千葉ロッテマリーンズの佐々木朗希投手。昨年、完全試合を達成し日本中を沸かせる大活躍をして侍ジャパンのメンバー入り。3月4日に行われたドラゴンズとの壮行試合(バンテリンドームナゴヤ)ではMAX165キロのストレートを投げ込み、世間をあっと言わせた。しかし、子供の頃の彼は目立つのが嫌い。人前で話をするのは大の苦手。そんな少年があっという間にスポットライトの中心へと導かれていった。

佐々木朗希 ©千葉ロッテマリーンズ

「恥ずかしがり屋だった」目立つのことを嫌った少年時代

「昔と今で、なにが一番変わったかというと人前で話が出来るようになったことだと思います。本当に今までは人前で話をすることが出来なかった。目立つのが嫌い。集合写真とかを撮るといつも端とか目立たないところにポジションをとっていた。恥ずかしがり屋だった」

 侍ジャパン合流直前の糸満キャンプ。メディアの多数のカメラが佐々木朗希の一挙手一投足を見逃すまいと追いかけてくる中、ふと昔を思い出したかのように笑った。

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 野球におけるパフォーマンスだけではなく、そのスラッとした長身も目立つ。小学校6年生の時で168センチ。中学2年生の時には180センチを越えて、高校に入った時には186センチほどになっていた。そして今は1メートル92センチ。おのずと街を歩けば、誰もが振り返る。「だから猫背になった」と本人は苦笑いを浮かべる。

 色々なエピソードがある。中学校の時の身体測定。長身であることを周りが騒ぐのが嫌だったため測定の時にわざと膝を曲げて過少申告をしたという。それほど、なにかにつけて目立つのは嫌だった。

 保育園で誕生月の子供たちがステージに上がって質問を受けるイベントがあった。一人一人が「好きな食べ物や飲み物はなにですか?」と聞かれ、嬉しそうにハキハキと答えていく中、一人だけステージに上がっても、決して口を開こうとはしなかった。徹底的に抵抗するため、困った先生が3歳年上の兄に「代わりにお兄ちゃんが答えてください」とお願いをして、なんとか「ココアです」という回答を代理で引き出した。お兄さんが6歳。佐々木朗希が3歳の時の話。人前で話をするのが本当に苦手だった。ココアは好きだった。

 幼稚園などでの劇の発表会でも主人公とは無縁。率先して照明係などの裏方役に回ったり、脇役でもセリフのない木や石の役などを好んで選んだ。家族写真を見ても、なかなかまともに笑った写真を見つけることはできない。七五三お祝いの撮影も袴姿にはなっても、必死に抵抗するかのように、はにかみながら写真に写っている。それが21歳となった今はどうか。メディアから多数の取材依頼が舞い込む。当然、撮影もあり、笑うことを求められ、笑顔を作る。完全試合をしたことで表彰やスピーチをすることも増えた。本人も驚くほど環境は変わっていった。

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