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えぐい大家

 案内してくれたのはヴィクトリアと名乗る中年女性の大家。英語をまったく解さないので、会話はワッツアップとかいう翻訳機能があるインターネットを通じてなんやが、これがまあえぐい大家なんである。いや名前のとおり勝気というかがめついというか(ヴィクトリアという名前は日本風に直せばさしずめ勝子である)、まるでロシアの文豪ドストエフスキーの『罪と罰』に出てくる、主人公ラスコーリニコフに殺される質屋の強欲ばばあみたいなのである。

 やれ泥がついた靴でカーペットを歩くなだの、汚したら弁償だの、部屋とフロアとビルに入るための3つの鍵も絶対失くすなだの、失くしたら100ドルだのとまあこまかい。しかし1泊20ドルである。ハルキウの街中じゃあどこ捜したって80ドル以下の宿は普通はない。

不肖・宮嶋が去年6月まで下宿していた劇場楽屋にも冬を乗り切るための食糧が備蓄されていた ©️宮嶋茂樹

突然停電も気合いで乗り越える

 しかし、安いのにはちゃあんと理由があるのである。強欲大家だけやない。突然ミサイル降ってくるからだけやない……まあロシア軍のミサイルのせいなんやが、ウクライナ中のインフラ施設をロシア軍が集中的に攻撃したもんやから、しょっちゅう停電しよるのである。それは計画停電というよりは突然停電。ハルキウを訪れる前に滞在していたオデーサでは12時間も続いたのである。宿泊していたホテルは1泊60ドルのスイートルームでも湯は出ん。昼間でも真っ暗。当然暖房も効かない。

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ロシア軍のウクライナのインフラ施設への攻撃は執拗を極める。この夜のオデーサも一日中停電。それでも飲食店はしっかり22時まで営業しており、発電機のないここの中華レストランでは蝋燭と懐中電灯の灯りを頼りに食事をつづけた ©️宮嶋茂樹

 とは言うても極寒のシベリアやマイナス60度の南極大陸を知る不肖・宮嶋にとっては、いや、ウクライナの民にとっても、気合で乗り切れる。冬季のウクライナ東部は毎年冬に北海道に鹿狩りに行く不肖・宮嶋の印象ではちょうど釧路と同じ気候という感じである。時には、また場所によってはマイナス20度近くまで冷えるが、ふだんは0度前後、冷えてマイナス10度くらいである。それで暖房がきれたら、まあきついが、ダウンの寝袋にもぐりこめば凍死する心配もない。