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「資本主義の終焉は必然的に訪れる」

 習近平の思想は、マルクス、レーニン、スターリン、毛沢東など歴代の共産主義の理論家や指導者の教義・理想・伝統を踏まえたものである。私がホワイトハウスに入った2017年初め、国務省の外交官やCIA分析官から「中国ではイデオロギーは無視していい」とブリーフィングを受けたものだが、それは誤った認識だ。今では徐々にではあるが、ワシントンでも、習近平はマルクス主義の信奉者であり、マルクス主義を世界に輸出しようとしていることが知られるようになってきた。

 習氏を理解するには、彼の歴史解釈を知ることが重要だ。プーチン氏がかつて「ソ連の崩壊は20世紀最大の地政学的大惨事である」と宣言したことはよく知られている。一方であまり知られていないのは、ソ連の崩壊がいかに習氏を怯えさせているかという点である。

 党総書記に選ばれた直後の2012年12月、習氏は広東省の幹部に対して非公開の演説を行った。その抜粋がリークされ、2013年初めに中国人ジャーナリストによって公開された。

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「ソ連はなぜ崩壊したのか。ソ連共産党はなぜ崩壊したのか。彼らの理想と信念が揺らいだからだ。それは私たちにとって非常に重要な教訓だ。ソ連とソ連共産党の歴史を、あるいはレーニンとスターリンやそのほかソ連に関するすべてを軽視することは歴史的ニヒリズムであり、我々の考えを混乱させ、党組織を弱体化させる」

レーニン ©時事通信社

 習氏が「歴史的ニヒリズム」に言及したのは、(スターリンら前任者の顔に泥を塗った)ニキータ・フルシチョフに対する暗黙の批判だった。しかし、習氏の演説において紛れもない悪役として描かれたのはミハイル・ゴルバチョフだ。彼のペレストロイカ(変革)とグラスノスチ(情報公開)がソ連解体を招いたからだ。

「ソ連共産党の何人かはソ連を救おうとした。彼らはゴルバチョフを捕らえたが、独裁の手段(、、、、、)を奪われたために、数日のうちに再び逆転された。毅然と抵抗するような男気のある人物は存在しなかった」

「独裁の手段」という言葉は、党、特にその最高指導者が軍、治安機関、プロパガンダ、政府のデータ、イデオロギー、経済を支配することが不可欠であるという考えの表れであり、その後、10年間、習氏の演説の中で繰り返し発信され続けている。

 2013年1月、習氏は党中央委員会の新メンバーとその候補に向け、事実上の就任演説を行った。その後、6年間秘密にされてきたこの演説では、習氏が党と国家を指導するにあたり、冷戦時代の言葉をそのまま使っていることがわかる。

「一部の人々は、共産主義は目指すことはできても達成できないと考えている。実際のところ、マルクスとエンゲルスの分析(資本主義社会の孕む基本的な矛盾)が時代遅れでないことは幾度となく歴史が示している。資本主義の最終的な終焉と社会主義の最終的な勝利は、必然的に(長期におよぶ歴史的プロセスの結果として)訪れる」

(本稿はポッティンジャー氏がマシュー・ジョンソン、デビッド・フェイス両氏との連名で、昨年11月30日にフォーリン・アフェアーズ誌に寄稿した「習近平の言葉から見えて来るもの」に、2月に小誌が行ったインタビュー内容を加味して構成している。近藤奈香訳)

元米大統領副補佐官のマシュー・ポッティンジャー氏による「習近平の狂気」全文は、「文藝春秋」2023年4月号と、「文藝春秋 電子版」に掲載されています。

文藝春秋

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習近平の狂気