ノンフィクション作家・広野真嗣氏による「江東区長・東京都議親子の『都立ゴルフ場・若洲リンクス』“私物化”疑惑」前後編の一部を公開します。(「文藝春秋 電子版」より)
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「日本一予約が取りにくい」ゴルフ場
東京都江東区にある都立のゴルフ場「若洲ゴルフリンクス(GL)」で、利用希望者が集中する歳末の昨年12月29日、自民党東京都連青年部青年局の区議や都議を集めたゴルフコンペが開かれていた。
参加議員が取材に答えた。
「統一地方選に向け地元の会合があって気乗りはしなかったのですが、都連のグループLINEで『人が足りないから』といわれました。朝7時半から4人1組16人で回って、午後の最後はゲストルームで表彰式。もちろん、青年局長の山﨑一輝先生もあいさつをしていました」
この若洲GLは「日本一予約が取りにくい」といわれる人気のゴルフ場だ。都立若洲海浜公園につくられた公共施設ながら、先着順で行われる予約受け付けは「10分間に80回(予約電話を)かけてもつながらない」と苦情が出るほどのパンク状態が常態化して、愛好者でも年に一度行けるかどうか、だという。
そんな大人気の公共レジャースポットを地元政治家が毎月のように利用していた疑惑が浮上している。詳しくは後述するが、年明けから都庁を揺るがす騒動になりながら、ここに至るまで内実がはっきりしない。事態を複雑にしているのは、その当事者が、統一地方選で5選をうかがうベテラン区長と都議の親子であることだ。
筆者は、その実態を解き明かすカギとなる2つの内部資料を入手した。
若洲ゴルフリンクス人気の秘密
第一の資料は、「若洲ゴルフリンクスの利用実績」とタイトル書きされたメモ(以下、「(1)メモ」)だ。若洲GLの運営は、東京都港湾局所管の外郭団体「東京港埠頭株式会社」が行っており、港湾局か会社の職員が作成したと見られる。
右上に「取扱厳重注意」と書かれていて、まず、【実態】として次のように記されている。
R2年度 山崎孝明区長15回、山崎一輝議員10回(計25回)
R3年度 山崎孝明区長14回、山崎一輝議員13回(計27回)
R4年度 山崎孝明区長0回・山崎一輝議員15回(計15回)
さらに【対応】として、「抽選制への移行」「体制見直し 現在予約業務を担っている担当者を異動」など、4項目を列挙している。最後は「※」として「山崎一輝議員への説明(これまでの予約慣行の見直し)については、別途検討」と続く。
この「利用実績」が事実なら、名指しされた2人は、異常なまでの高倍率の中を月に1度はすり抜けたことになる。この点を確かめる前に、若洲GLとはどのようなゴルフ場か、振り返っておきたい。
東京湾に注ぐ荒川右岸の河口先に、2つの人工島が南北に並んで伸びている。陸側(手前)は「夢の島」であり、その先が「若洲」だ。
有楽町線「新木場駅」が夢の島の中央あたりにあり、そこから若洲方面に向かうバスで5つ目が最寄りの停留所になる。「銀座一丁目」駅からなら所要時間は約30分。車なら首都高湾岸線を使って新木場ランプで降りてわずか15分で着く。
1990年に開場した全18ホールのコースは岡本綾子氏らが設計・監修した。島の先端だから3方向を海に囲まれている。東方に目をやると、左手に葛西臨海公園を視野に納めながら正面に東京ディズニーリゾート、南の方角には東京湾アクアラインの「海ほたる」を遠望できる。
なぜ、こんなところにゴルフ場があるのか。江東区ゴルフ連盟の澤井均理事長に話を聞いた。
「1960~70年代にかけて埋め立てられたのが『新夢の島』と呼ばれたこの若洲です。23区内のゴミが搬入され、その上に今の都庁舎をつくるのに出た残土がかぶせられた」
迷惑施設受け入れの代替措置だが、当初は快適ではなかった。