北との「近さ」は政治的資産
盧武鉉大統領は就任後、少数与党の国会運営に苦しみ、一時は大統領弾劾訴追まで発議されて政治的に追い込まれた。前任の金大中(キムデジュン)大統領は、「太陽政策」を掲げて北朝鮮との融和を強調。2000年6月には南北首脳会談を実現し、「世界平和」に貢献したとしてノーベル平和賞を手にしていた。
韓国の情報機関である国家情報院(国情院)の元職員、金基三(キムギサン)氏の証言によれば、金大中政権は首脳会談実現のため、国情院を動員して金正日(キムジョンイル)国防委員会委員長に約2兆ウォンに上る資金を贈ったとされる。当時の韓国で北朝鮮との「近さ」は、重要な政治的資産と言えた。南北首脳会談は指導力と国際的な存在感を誇示するためのカードとして通用していたのである。
金大中政権の「太陽政策」の継承者を自任する盧武鉉大統領にとっても、会談実現は自身の威厳を高め、政治的安定感を得て、その先の「祖国統一」へ向かう道筋をつけることになる。
隣国で韓国よりも国際社会における存在感が大きい日本において、民団が朝鮮総聯と一体化へ向かえば、対北融和政策推進に弾みをつけることは疑いなかった。
その朝鮮総聯との接近を主導したのが、河団長だった。
「山里」での四者朝食会当日の4月11日、河団長は民団執行部を引き連れて訪韓。盧武鉉大統領と面会している。
『産経新聞』(2006年5月30日付)の西岡力氏が執筆した「正論」によれば、河団長は盧大統領に、韓国政府から民団への年間8億5000万円の支援金を継続するよう陳情したとされる。
河氏は帰国後、朝鮮総聯と「在日韓国民主統一連合(韓統連)」の両団体の幹部との三者会談に臨む。二団体はどちらも北朝鮮の意向に忠実であり、河氏の行動は民団関係者を不安にさせた。しかしながら、朝鮮総聯との一体化工作はこうした懸念をよそに半ば強引に進められた。