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《アラブの王族になりますよ》元朝日新聞・密着記者が見たガーシーの「無垢さ」とは?

2023/03/14

source : 文藝春秋 電子版オリジナル

genre : ニュース, 社会, 政治

爆弾告発男・ガーシーとは何者なのか。1年近く密着してきた元朝日新聞記者が、ガーシーの「本質」に迫る。

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 ある種の無垢な精神の持ち主――。国会欠席問題で除名処分が検討されている参院議員、ガーシーこと東谷義和=敬称略=をそんな風に形容すると、「そんなばかな」という反応が返ってくるだろうか。「詐欺まがいのことをしたペテン師だぞ」「取材者はガーシーにすり寄っているのか」という声も聞こえてきそうだ。しかし、この表現は彼に1年近く密着してきた私が抱くウソ偽らざる感想だ。

 昨年2月17日、動画配信サービスのYouTubeで、「東谷義和のガーシーCH【芸能界の裏側】」 は突如として始まった。芸能人に対し27年間、異性を引き合わせる「アテンダー」をやってきたとし、自らの詐欺疑惑が発覚すると、急に連絡を絶つなどして「手のひら返しをした」芸能人の友人らに対し、「私怨」だと公言しながら過去のスキャンダルを暴露し始めた。速射砲のような関西弁の語り口、「きっちりやったる」「全部めくったる」といった特徴的な言い回しも話題となり、チャンネル開始50日たらずでチャンネル登録者数は100万人を突破する。

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ガーシーCHチャンネル登録者数100万人記念の配信(筆者撮影)

 そして昨年4月、朝日新聞ドバイ支局長だった私は初めて東谷に接触することになった。その1ヶ月ほど前に東谷がドバイにいるという情報が私のもとに寄せられ、取材対象として強い関心を抱くようになっていた。詐欺疑惑も抱えているため事件取材の目的もあったが、何よりも「文春砲ならぬガーシー砲」「一人週刊誌状態」などとの論評も出始めており、一つのメディア現象を起こしている人物として取材する価値が大きいと考えた。あくまでも物議を醸す渦中の人として、是々非々で取り上げる。その視座さえブレなければ記事として成立するだろう――。そんな思いで東谷のツイッターのダイレクトメールを通じて取材を申し込んだのが全ての始まりだった。

 当初は「(詐欺疑惑の)被害者への弁済が終わるまではインタビューは受けられない」と拒まれたが、挨拶という名目で会えることになった。ドバイでオープンしたばかりの最高級の和食レストランが場所に指定され、そこで東谷と初めて対面したのだ。

 黒で統一された高級感漂う店に、東谷はベージュの野球帽に白いTシャツ、膝までのハーフパンツというカジュアルな格好で現れた。

 会うなり、満面の笑顔で、白い歯をのぞかせている。ご満悦なのは当然だった。この日、昨年4月7日にチャンネル登録者数がちょうど100万人を突破し、そして多額の広告収益が入ることも確実になったからだ。

「収益化に必要なピンコードが(YouTubeを運営する)グーグル社から届いていなかったので不安だったのですが、ようやく届きました。正直、もう全て返済できる見通しが立ったんです。ただ、最初の収益が入ってくるのは5月下旬ぐらいになりそうなんですけどね」。開口一番、東谷はそう説明した。

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