サブカル系ライターとしても有名な朝日新聞の太田記者が、自然破壊の愚かさを訴える映画版とは大きく印象が異なる原作漫画「風の谷のナウシカ」の謎に迫る!
宮﨑駿による漫画「風の谷のナウシカ」について、18人の識者へのインタビューをまとめた書籍「危機の時代に読み解く『風の谷のナウシカ』」(朝日新聞社編)が徳間書店から刊行された。朝日新聞デジタルでの連載記事をまとめたもので、インタビューに答えているのは、軍事アナリストの小泉悠氏、社会学者の大澤真幸氏、生物学者の福岡伸一氏、俳優の杏氏、漫画家の竹宮惠子氏、大童澄瞳氏ら。この連載を企画し、18人中15人の識者へのインタビュアーを務めたのが、朝日新聞文化部の太田啓之記者だ。大反響だったというこの連続インタビューを経て、現代の日本で漫画版ナウシカを再読する意味について、太田氏が改めて書き下ろした。
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「映画を見て感動した人への裏切りじゃないか」
漫画「風の谷のナウシカ」は、連載をリアルタイムで読みながら青春期・青年期を過ごした僕にとって、ずっと心に刺さったトゲのような存在だった。特に最終巻である第7巻は、刊行された1994年以来、数え切れないほど読み返し、そのたびに、解こうとしても解けない「巨大な謎」を突きつけられる思いを味わい続けてきた。庵野監督も「ナウシカの7巻」について、「宮さんの最高傑作」「映画化したい」とくり返し発言している。小泉悠さんも「危機の時代に読み解く『風の谷のナウシカ』」(以下、「本書」と称する)の中で、「僕の中でナウシカとエヴァはつながっている」「ナウシカやエヴァで味わった『この世の終わり』の感覚が、核抑止戦略に関心を持ち、今の仕事につながる淵源だった可能性はある」と語っている。
漫画版「ナウシカ」は1982年に雑誌「アニメージュ」で連載が始まった。宮﨑駿さんは84年の映画版公開後も、映画制作の合間をぬって懸命に漫画版の続きを描き続け、94年にようやく単行本が完結した。その結果、漫画版のたどり着いた境地は、映画版とはまったく異なるものとなった。(以下の内容は、漫画版のネタバレを含む)