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《アラブの王族になりますよ》元朝日新聞・密着記者が見たガーシーの「無垢さ」とは?

2023/03/14

source : 文藝春秋 電子版オリジナル

genre : ニュース, 社会, 政治

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 飲み物はアイスグリーンティーを注文した。意外にも酒が飲めない体質だという。しかし、酒は飲まなくても暴露配信と同じように本当によくしゃべる。私が一つ質問したことに10倍返すかのように半ば問わず語りにしゃべり続ける。交友のあった綾野剛や城田優、新田真剣佑などの直近の暴露対象になった具体的な芸能人の名に次々に言及しながら、近く暴露を予定しているスキャンダルまで開陳していく。職業柄、つい私も食い入るように耳を傾けてしまい、東谷から「普通にガーシーCHファンですか」と笑われてしまうほどだった。

「毎回、覚悟決めてやってるんで」

 配信開始から50日足らずで、あっという間に億越えは確実とみられる収益を確保した東谷にこう尋ねてみた。

「今はこんなに話題にもなって、(YouTube配信が)楽しいんじゃないですか」

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 東谷は途端に表情を変え、首を振りながら即座に言い切った。

「それはないですよ。楽しいなんてのは、まったくないです。本当に毎回、覚悟決めてやってるんで」

 この瞬間から東谷を追う長い日々が始まったように思う。了解を得て密着取材を始めると、東谷は次々に私の想定を超えた行動に出る。動画の広告収益で返すと思っていた詐欺疑惑の4000万円の弁済金は日本全国に美容クリニックを展開する医師麻生泰氏に先に貸し付けてもらい、またたくまに弁済を済ませる。そして、その示談が全て済んだ段階で長らく極秘にしていたドバイ滞在を明らかにすると、あろうことか今度は海外にいながらにして立花孝志氏が党首を務めるNHK党(当時)から参院選に出馬し、当選してしまう。

 私は東谷のインタビュー原稿をめぐる朝日新聞の所属部署の対応に疑念を抱き、会社を退職する決断をすることになったが、退職後もドバイに引き続き住み、取材を継続させてきた。このほど取材の集大成として出版するのが「悪党 潜入300日 ドバイ・ガーシー一味」(3月17日発売、講談社+α新書)だ。ガーシーCHの配信現場、参院選出馬、誕生日会、モーニングルーティンなど、ドバイでの東谷に密着し、その行動を追った。そして、東谷の周囲に成人向け動画投稿サイト創業者で日本警察からマークされている者、暗号資産ビジネスでグレーな噂を抱えている者、学生闘争で挫折感を抱いた元赤軍派、交通事故で相手を植物状態にさせた若手経営者ら、日本社会に何らかのルサンチマン(遺恨)や情念を抱える者たちが数多く集まっていた。そして、その彼らが東谷のガーシーCHに対して陰に陽にさまざまな形で手を貸している様子を描いた。

伊藤喜之著 『悪党 潜入300日 ドバイ・ガーシー一味」(講談社+α新書)1100円(税込)

 詳細は本書を手に取っていただきたいが、この原稿では、なぜ私が東谷を「無垢」だと感じたのかが本題である。その理由をいくつか東谷のエピソードを交えてお伝えしたい。

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